2009年5月12日火曜日

TCP著効

ちょっと前の日のこと。70代男性。主訴嘔吐、失神。救急隊現着時バイタルがHR30台と徐脈、血圧70台とショックであることから循環器への救急搬送となりました。救急外来で予め除細動器+TCPを準備し待機していましたが、救急外来搬入時はHR90の洞調律で、血圧も160/と高めで、自覚症状も改善していました。ただ、救急隊の心電図記録をみると、HR30ほどの完全房室ブロックでした。12誘導心電図記録したところ、洞調律でしたが、1度房室ブロック、右脚ブロック、左軸偏位でした。おまけにV1-4ST上昇しているようにもみえ、研修医が静脈路確保を試みましたが、難渋。その間心エコーを施行、左室の局所的壁運動異常は明らかでなく、STEMIではなさそうでした。エコーを始めて数十秒ほどしたところで突如左室運動が停止、モニターをみたらP波のみの波形、いわゆるventricular standstillという状態でした。全く補充収縮が出ません。患者は意識消失し痙攣。CPRを開始しつつ、すぐにパッドを貼って、TCPを作動させました。100mAほどでペーシング捕捉。脈も触れるようになりました。しかしながら、患者さんはTCPの刺激に著しい苦痛を訴え悲鳴をあげていました。でも、TCPやめると心停止となってしまうし、静脈路はまだとれていなくて鎮静鎮痛もできないし、アトロピンやカテコールアミンも投与できません。大変困惑しました。我慢してくださーい!と励ますしかありません(苦笑)。その後ようやく静脈路も確保でき鎮静剤投与可能となりましたが、このころ自脈もHR30ほどでしたが出現してきており、スタンバイペーシング状態にしTCPをoffとして、そしてカテ室で経静脈ペーシングを入れました。次いでCAGを施行しました(3枝病変でしたが、ACSの明らかなる責任病変は認めませんでした。少なくともST上昇を説明しうる病変はありませんでした)。虚血とブロックの関連は判然としませんので、後日permanent pacingを植え込みました

ということで、久しぶりにTCP様々という症例に遭遇しました。この事例の初療のポイントは

1.完全房室ブロックへの対応はやはり油断できません。

2.TCPを準備していたことがきわめて効果的でした。CPRは最小限で済みました。

3.状態悪化時、患者の状態は心停止、波形はventricular standstillで、asystoleの範疇に入ると思われますが、このような特別なケースではTCPが著効します。

4.TCPの刺激に耐えきれないほどの痛みを訴えるが、静脈路確保に難渋、TCP止めると心停止。このジレンマに悩みました。

一般的に循環器医は経静脈ペーシング挿入にも長けていますし、TCPを軽視する傾向にありますが、さすがにこのようなケースはTCPの準備をしていないと焦ると思います。ACLS講習会に携わるようになり、TCPがそれまで以上に身近になり、このような状況も無難に乗り越えることができ、よかったです。

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