2010年5月30日日曜日

剣状突起

さて、久しぶりの更新です。

心肺蘇生教育の世界に、新たに興味を持ち、新規参入されてくる方がそれなりにいらっしゃいます。有り難いことです。ベーシックで当たり前のようですが、うまく答えることができない質問を受けることが時々あります。

例えば、胸骨圧迫の手の位置についての、非常にベーシックな質問。

AHAのプロバイダーマニュアルには、乳児のCPRでは「剣状突起は押してはならない」と明記されていますが、成人のCPRでは、明記はされていません。この違いは何なのでしょうか。

うーん。当たり前のような質問ですが、考えだすと、結構深いです。

まず成人について。
乳頭間の正しい位置取りをすれば剣状突起を押すことは有り得ませんが、なぜ剣状突起を押してはいけないのかという問いに対しては、CoSTR、ガイドライン、プロバイダーマニュアルには記載がありません。そもそも、CoSTRには、「成人CPRにて、手をおく位置についての満足できるエビデンスはない」とあります。現在、推奨されている乳頭間の手の位置も明確なエビデンスのないコンセンサスと言えます。極論を言えば、現在の推奨の手の位置が、剣状突起近くの圧迫よりも明らかに優れているというエビデンスはないわけです。
現在の推奨の手の位置と、剣状突起近くの手の位置で、腹部臓器損傷の頻度が本当に異なるのか、分かりません。
AHAを離れれば、Case report等でCPRによる腹部臓器損傷の報告もありますので、避けた方が良い気がしますので、なんとなくそのように指導してきましたが、いざ客観的に調べると、意外とクリアではありません。

乳児については、上記のようにBLSプロバイダーマニュアルには「剣状突起は押してはならない」と明記されています。理由については記載がありません。成人より乳児のほうが臓器損傷が生じ易い印象がありますが、そんな報告もあるのでしょうか。乳児には記載あり、成人には記載がないのはそのためなのでしょうか。
CoSTRには、「小児では胸骨の下3 分の1 の圧迫が胸骨中央に比べ高い血圧を生み出せる」とも書いてあります。
この文献が出典みたいですが、小児と乳児が対象のようです。乳児の数は僅かですが、この文献が根拠のひとつとして乳児の胸骨圧迫の位置が”乳頭間線直下”というやや下の推奨になっているのでしょうか?。(ちなみに、小児が成人と同様の手の位置なのは、シンプルにすることで、教育的効果を上げるためだからでしょうか?)乳児は成人よりもやや下を圧迫することになりますから、その分剣状突起に近くなり、その結果、「剣状突起は押してはならない」の記載が敢えて書かれているのでしょうか。うーん、分からないことだらけです。

恐らくは、これまでも様々なところで議論されていることとは思います。
良い答えをご存知の方は御教授下さい。

3 件のコメント:

  1. とりあえず口火として、解剖+生理学的事項を。

    乳児では成人と異なり、肋骨弓下に肝臓が隠れませんね。
    成人に比べて、肝損傷のリスクは高いと言えるかもしれません。
    あくまで直感的な印象ですが。

    また成人に比して胸郭の発達が悪く、かつFRCが少ないので、
    胸骨中央の圧迫では下3 分の1 に比べて、有効な胸腔内圧上昇 &
    Oscillationが得られない可能性もあります。

    いかがでしょうか??

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  2. 剣状突起はすぐ折れるからだと習いました。
    実際胸骨圧迫を受けて剣状突起がちょっと下にずれてる方がいらっしゃいました。
    肋骨骨折はしょうがないですが剣状突起は胸骨圧迫するうえで折る必要がない骨だと思います。
    剣状突起は横隔膜とつながってるんでどこかに行ってしまうということはないでしょうが、肝臓ぐらいなら傷つけるかもしれないですね。

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  3. お返事遅れて申し訳有りません。
    Cosyさん、貴重な御意見ありがとうございます。理論的意見には説得力があります。
    匿名さん、有り難うございます。剣状突起ってすぐ折れるんですか!知りませんでした。剣状突起と横隔膜がつながってることも、知りませんでした!勉強になります。

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