2010年12月29日水曜日

院内AED

Automated External Defibrillators and Survival After In-Hospital Cardiac Arrest

1ヶ月以上前の論文です。まあ、一言で言えば、院内でのAED使用の有効性は見いだせなかった、という趣旨です。心肺蘇生に携わる者にとっては、なかなかimpressiveです。
Kim先生が詳細に解説してくれています(ありがとうございます。勉強になります)。こちらをどうぞ→  

心肺蘇生教育に携わっている優秀な中堅看護師さんが、この論文を読んだらしく、院内教育でAED教えているのに、、困惑してしまいますとの御意見を最近頂きました。
院内でのAED使用は”有害である”などとネット上で過激な言葉で紹介されたりもしていましたが、それは言い過ぎでしょう。手動式除細動器よりは劣っている可能性が示唆された、くらいにしておいて欲しいものです。
この研究はRCTではありませんし、数々の限界はありますので、決定的なことは言えませんが、大きなRegistry(NRCPR)のデータだけに、やはり無視はできないことも事実です。

院内心停止は、院外心停止と異なり、PEA、Asystoleの割合が多いことが特徴的です。このNRCPRではPEA/Asys80%、VT/VF20%ほどです(院外心停止ですとVT/VFは45-71%ほど)。ちなみに、NRCPRよりnの桁が2つくらい少ないですが、日本の院内心停止のレジストリーでも、PEA/Asys70%、VT/VF30%とPEA/Asysが多いです。
病院の主要科や規模、急性期病院か否か等によっても大きく異なってくるでしょうが、全体としては、院内心停止は、院外心停止とは明らかに質が異なります。基礎疾患を有している人や全身状態が悪い人が多い(病院だからあたりまえ)ことが影響していると推測されます。PEA、Asystoleですと当然ショック適応なしですから、AEDを使用すると、パッドを貼って、解析する時間の分、胸骨圧迫時間・回数が少なくなるわけで、これがAED使用の蘇生率悪化に影響を与えている因子の1つとなっていると推測されるわけです。

この論文は、AEDの限界を示唆する一方で、胸骨圧迫の重要性の更なる裏付けとなりうるものではないかと思います。やっぱり、絶え間ない胸骨圧迫が極めて重要だ、と。胸骨圧迫の重要性を示唆する論文と考えれば、心肺蘇生教育の場でも、べつに困惑することもないでしょう。

解析中、充電中も胸骨圧迫継続が可能なAEDが開発されれば、このAEDの限界を打破できるかもしれません。
こんなこともありましたし、この記事の最後の論文の"Hands-On Defibrillation"のように、手袋して胸骨圧迫すればショック中も感電しないので、充電〜ショック中も胸骨圧迫継続可能になることも有り得る?(笑)

現状の院内においては、訓練された医療従事者(現状の日本なら訓練された医師のみでしょう)であれば、AEDではなく、手動式除細動器を使用すべきと考えざるを得ないでしょうから、心肺蘇生教育の場では、受講生のレベル次第で、その旨お伝えすることになろうかと思います。AED使用の際には迅速、かつHigh Quality CPRもお願いしますね!っと念を押すことも重要でしょう。


今後この論文が、ガイドラインやプロバイダーマニュアル等に反映されてくる可能性もありますよね。。。どうなのかな。

上の論文を読んだ看護師さんは、近い将来日本版ナースプラクティショナーの先駆けとなる辣腕看護師養成の大学院に通いスキルアップに励んでいる方です。だから、英語の論文も読むわけです(ぱちぱち)。ナースであっても、訓練されていれば手動式除細動を施行可能になりえるか。そんな可能性を支持しうる論文かもしれません。その看護師さんの研鑽のモチベーションにもなりえるかな。

3 件のコメント:

  1. 私のブログの記事を紹介して頂きありがとうございます。

    論文は読むのが難しいですよね。

    記事で紹介させて頂いた医療サイトですら、記事の内容が間違っている場合があります。要約を適当に読んで、きちんと本文まで読んでいない場合があります。原文を読むのは大変ですが、、、ちゃんと読まないと結論を勘違いする場合もありますよね。

    帰無仮説と言うのが正しい、あるいは証明できないと言う風になるので、AEDを院内に置く事が生存率を高めるか?と言う場合には、高める、あるいは高めると言えないのどちらかで、低くすると言う結論にはなりません。難しいですね。

    明日も記事をアップされるかどうか分かりませんが、来年もよろしくお願いいたします。

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  2. とある夜の当直中に、一人の医療従事者がCPAになったことがありました。病院敷地内でしたが、スタッフルームは医療提供能力としては院外に等しい環境でした。ある看護師が取り急ぎつかんで持ってきてくれたAEDを使用することで心拍再開し、入院経過もよく、その人は医療現場に復帰していきました。病院という施設内にはさまざまな場所に心肺蘇生のpitfallが隠れていると思います。少なくとも年若き医療従事者の社会復帰の決定打になったのは常設されていたAEDでした。experience based medicineといわれるかもしれませんが、院内AEDは時に大切なものを救ってくれると思います。

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  3. 明けましておめでとうございます。
    Kim先生、有り難うございます。このブログを続けていられたのも、Kim先生の温かいリアクションがあってこそです。本当に感謝しています。先生程のacticityは維持できませんが、見習って、頑張っていこうと思っています。今後とも宜しくお願い致します。

    consommeさん、いつも貴重な御意見有り難うございます。特に、今回、貴重な体験、有り難うございます。このようなimpressiveな体験は皆で共有することは極めて重要ですよね。院内AEDが有用だった体験は皆少なからず有るはずです。それをまとめて、有用性をアピールすべきだと思っています。うんうん。

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