2015年5月6日水曜日

ACLSコースで楽しかったこと。

ACLSコースの頻拍のセッション。クリニックの内視鏡室に勤務されている看護師Aさんが受講生でリーダー役のケース。担当のインストラクターが、「内視鏡室で生じたunstable VT」を提示しました。Aさんは、不安定頻拍と判断し、手動式除細動器を要請して、同期電気ショック施行、洞調律に復帰。適切な対処ができました。終了。


不安定頻拍のアルゴリズムを学ぶには悪くないシナリオです。彼女の背景に合わせた状況設定は、学習へのモチベーション向上を促すことでしょう。

ところで、そのクリニックには手動式除細動器があるのでしょうか?疑問を抱いたので、それを見ていた自分が介入し、確認させて頂いたところ、クリニックにはAEDしかないことが発覚しました。

即ち、先のシナリオでの対処は、現状の彼女にとっては完全にバーチャルな世界だったわけです。アルゴリズムの型は学べても、それは現場での実践に繋がりません。

それでは、手動式除細動器がないクリニックでunstable VTを発症したらどのすれば良いのでしょうか?彼女はどのように対応すれば良いのでしょうか?彼女が取るべき具体的な行動は?

・AEDを使う?
・薬を使う?
・補液でしばらく様子を見る?
・薬を使った上で救急要請、転送?
・薬を使わず救急要請、転送?

受講生、インスト、皆が様々な意見を出し合いました。

その経過で、

・AEDの使用対象は「心停止」のみであること
・AEDは同期電気ショックはできないこと
・不安定頻拍に対して抗不整脈薬を使うことのリスク
・不安定頻拍→心停止のリスク

なども確認できました。

結論として、ベターな対処は、「余計なことをせず救急要請、転送」ということになりました。

このような議論を経た上で、

「もし内視鏡担当医が『輸液をして、ちょっと様子を見よう』と言ったらどうする?」

とAさんに最後に質問したら、「救急要請するように意見します」と建設的介入を施す旨お答え頂きました。
頼もしいです。

アルゴリズムを遵守して対応できればそれがベストでしょうが、全ての職場環境でその対処が可能なわけではありません。限られたリソースしかない環境で、このACLSコースの2日間で学んだ知識、スキルをどのように活かすのか。そんなことまで考えたコースにしたいと思っています。確たる正解がない問題も多々あるでしょう。そんなことはコースの目標から外れている、という意見もあるでしょう。

それでも、今回のように、それを受講生、インスト皆で議論を交わせたあの時間は、自分にとってめちゃくちゃ楽しい瞬間でしたし、その場にいた受講生、インストも、学びへのモチベーションが上がったと思います(主観笑)。

2015年2月16日月曜日

ROSCについて考え中。

ROSCの話の続き。
ちょっと自分でも混乱しており、前回の記事も少し手直ししました。

前回記事での混乱の一つの原因は、

頚動脈触知のROSC判断への「精度」

という漠然とした指標を使うからだろうと思い、

頚動脈触知のROSC判断への「感度」と「特異度」

に分けて考えようと思いました。

すなわち、

ROSC判断の感度=ROSCしていることを、ROSCしたと判断する
ROSC判断の特異度=ROSCしていないことを、ROSCしていないと判断する

ということです。

それでは、「ROSCの定義」を調べてみますと、、、、、

多くの文献は、「頚動脈触知=ROSC」と定義しています笑。
これでは、感度、特異度、、、という話にはなりません笑。

中には、平均動脈圧50mmHgをROSCと定義している文献(Vukmir et al 2004)もあります。

本当は、「頚動脈触知」よりも優れたROSCの指標があるはずです。

頚動脈は触れないけれども、最低限脳灌流が保持されており、CPRを中止しても良い状態があるかもしれません。
頚動脈は触れているけれども、脳灌流が不足しており、CPRを継続したほうが良い状態があるかもしれません。

カテ室で、動脈圧ラインが挿入されている状態で、患者の血圧が低下してしまった。頚動脈触知は明確ではなく通常ならCPRを始めるところだが、動脈圧ラインで動脈圧波形が出ており、収縮期血圧50mmHgくらいあるのでCPR開始しない、、、このような場面は正直あり得ると思います。それが、許容されることか、許容できないことか、よくわかりません。収縮期血圧50mmHgなら良いのか?60mmHgなら良いのか?あるいは、40mmHgでも良いかも?

どなたか、良い情報あれば教えて下さい笑。

こんな表も作って見ました。数値に関しては、参考値ですので細かい相関に関しては無視してください。
ご意見あればお願いします。




2015年2月14日土曜日

ROSCについて議論の場があったので、健忘録。

めちゃくちゃ久しぶりです笑。

とある場で、CPR後の自己心拍再開(ROSC)に関しての議論がありました。一言でいうと、頚動脈触知=ROSCでよいのか?という話。
その際のこと一部を、健忘録としてここに残しておきます。



ROSCは、「あり」「なし」と表現するが、実は連続したスペクトラム

頸動脈触知できれば、最も虚血に脆弱である「脳」への灌流は最低限確保できたと考えます。脈拍触知したらROSCと判断し胸骨圧迫は中止します。しかし、頸動脈触知=全身の灌流が十分、というわけでは決してありません。「ROSC」にも幅があります。「脳」への灌流がギリギリの「ROSC」もあれば、脳を含めた全身臓器の灌流が十分な「ROSC」もあります。「ROSC」は、「あり」「なし」ではなく、連続したスペクトラムです。ROSCしても、十分でない場合は、脳を含めた全身の灌流をさらに至適レベルまで改善させ(ABCの是正)、心停止の再発予防と臓器保護を施す、これがROSC後の管理の主たる意義です。


ROSCの評価方法について


ROSCの判断を「簡便さ」と「至適循環評価の精度」という切り口で分類してみました。上図ご参照ください(あくまでも個人的なイメージですので、あまり細かく考えないでください)。
当然、簡便でかつ精度の高い循環評価の方法が理想です。でも、まだそんな理想的な方法はありません。
上記のようにROSCは連続したスペクトラムです。すなわち「脳灌流を最低限確保」レベルから「全身臓器の至適灌流」レベルまであります。
「頸動脈触知」は特別な器具も不要で、簡便で汎用性に富んだ手技であり、これが一般的な臨床現場でのROSC判断のスタンダードな方法ですが、「脳灌流はざっくり、とりあえずありそう」レベルの判断になります。「脳灌流を最低限確保」レベルへの感度は高くはないかもしれませんし、もちろん、「全身臓器の至適灌流」レベルの判断もできません。

CPR中に動脈圧ラインを挿入、モニターし、平均動脈圧65mmHgを確認できれば、「全身臓器の至適灌流」レベルのROSC判断が可能になります。しかし、CPR中に動脈圧ラインを挿入することは一般的にはかなりハードルが高く、現実的ではありません。
ETCO2も有用ですが、CPR中に気管挿管する必要があり、やはり手間を要します。

「簡便さと精度のバランスの良さ」で現在のROSC判断は頚動脈触知が主流となっているのでしょう。精度の低さを補うのが迅速かつ適切なROSC後の管理です。

「脈拍触知=ROSC」これこそパラダイムです。そうでない考え方もあり得るという、一種のパラダイムシフトを、一連の議論の中で体験した気分です。将来的には、簡便かつ精度の高い、頸動脈触知よりも優れた新しいROSCの判断方法が生み出されるかもしれません。rSO2もその1つかもしれません。「当たり前」を疑うことから、始まります。

※自分で書いていて、自分でも混乱してきました笑。で、2/16ちょっと手直ししました。