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2011年5月27日金曜日

気分不良の心電図

さて、この心電図、なんでしょう?
中年男性、気分不良を訴えています。







完全房室ブロック、心室補充調律はHR20か、それ以下。この心電図の波はP波です。QRS波は全く出ていません。こんな12誘導心電図はなかなか珍しいですよね。心静止(asystole)の定義は混沌としていますが、AHA G2010ガイドライン(S735)には、「asystole(ventricular asystoleと表現したほうがベター)は心房の電気的活動の有無に関わらず、心室の電気的活動が同定できないもの」と記載されています。この記載からすると、これは心静止の12誘導心電図ということになりますね。。。。
しかし、一応意識はありますので、すべきことは、超症候性超徐脈の処置です。アトロピンは無効でした。同時にTCP作動、すぐさま経静脈ペーシング挿入しました。G2010でちょっとランクアップしたカテコールアミンは使わなかったなー。

2011年4月30日土曜日

徐脈ですが、徐拍ではない

中年男性。自宅血圧計で、脈拍が30台/分と遅いので心配、、、とのことで救急外来を受診されました。脈が遅い、というだけで、それ以外の自覚症状はありません。
研修医の先生が対応してくれまして、バイタルサインは安定、自覚、他覚症状ともに問題ありません。心電図を記録して、当直の私まで連絡をくれました。

「ご自宅では30台/分の徐脈のようでしたが、今は60台/分に戻っています。PVCsが出ています」





なるほど。洞調律ですが、PVCs(心室性期外収縮)の二段脈となっています。正常洞調律とPVCs合わせて、心拍数60台/分となっているようです。ただ、末梢動脈を触知してみると、正常洞調律時はしっかり触知するものの、PVCsの時はごく微弱か、殆ど触知できません。
つまり、自宅でも洞調律+PVCsの二段脈で心拍数はおおよそ60台/分だったものの、自宅血圧計ではPVCs時の脈拍をカウントできずに、30台/分と表示してしまったものと推測されます。
病歴と諸検査よりPVCsの原因となる、急を要する疾患はなさそうで、無症候性"徐脈"、無症候性PVCsであり、とりあえず経過観察で帰宅としました。
徐脈ですが、徐拍ではない、とでも言うのでしょうか。"徐拍”という表現はあまり一般的ではないですね。。。
まあ、心拍数は必ずしも脈拍数と同じではないということです。

このような二段脈で、PVCsの拍動が極めて弱く、めまいなどの徐脈症状を呈することもあるそうです。私は遭遇したことはないですが、先日不整脈専門家先生が言っていました。

2010年12月19日日曜日

高度房室ブロック??

急性大動脈解離で入院した患者に、Beta遮断薬を投与、増量していたところ,心電図モニターでこんな所見が記録されました。
後期研修医が、「QRSが脱落し、高度房室ブロックを疑う所見ですから、Beta遮断薬は減量することにしました」と報告してくれました。
急性大動脈解離にはBeta遮断薬は良い適応ですが、陰性変時作用がありますから、ブロックなどの徐脈性不整脈の副作用を認めることは時々あります。




なるほど、確かに、QRSが抜けています。



さて、ホントに抜けている?? 病的??

2段目の赤い線が書いてあるところ、看護婦さんが書いてくれたようですが、ここがそのQRSが抜けているとされる部位です。
その中央付近が、やけにflatに見えます。僅かな基線の揺れもなく、やや不自然にみえる気もします。高度房室ブロックなら、P波は等間隔で出現するはずです。赤線左端やや左のQRSはしっかりP波を伴っています。次のP波は確認できますが、その次のP波は、確認できません。不自然なflatな線のみで、P波らしき上向きの波形は確認できません。これが全くもって納得できません。
不自然なflatな波形直後の上向きのふくらみ波形(赤線左側3/4付近)があります。これは、、、、T波を等間隔に辿ると、このふくらみに一致します。これは、T波の可能性が高いです。
P波とT波の位置を書いてみるとこんな感じ。




結論的には、理由は分かりませんが、中段、左から2拍目のP波の直後からごく短時間の間、何らかの原因(機器の問題)で心電図が出力されずに、不自然なflat波形となってしまい、2拍目のQRSと(T)波は確認できません。3拍目の(P)波もQRSも確認できませんが、T波は確認できます。このT波が出たところで波形出力が再開したと思われます。
患者さんの波形に異常があったわけではなく、心電図機器のトラブルの問題の可能性が高そうです。
ということで、房室ブロックが出現した可能性は極めて低く、Beta遮断薬の減量も不要と思われます。

原因はなんだろう。。。。困りますよね。

2010年11月16日火曜日

。。。。。

実際の臨床では、なかなか教科書通りに治療がはかどらない方が少なくありません。

高度〜完全房室ブロックで、心肺停止に近い状態で入院されてきた高齢者。本来恒久的ペースメーカー植え込みの適応でしたが、感染症併存などの事情あり植え込みできず。感染症治療に難渋し、数ヶ月というspanで保存的に対処されていました。一時的ペースメーカーも抜去され、幸いその間、心臓的な病状は落ち着いていました。ようやく感染症も落ち着きをみせ、恒久的ペースメーカーもそろそろ植え込めるか、、という時期でした。



重篤な心疾患を有していることなどすっかり忘れてしまっていたこの時期。。。。。突如高度房室ブロックから、心静止に移行しました。心電図モニターの異常に気づいた看護師が訪室、反応なく、脈拍も触知しないためCPR施行となりました。早々に医師らも訪室。High qualityを意識したBLS、とりあえずは換気はBVMです。ACLS secondary surveyとして、静脈路を確保したいのですが、とれません。静脈が大変細い方です。頸骨粗面から骨髄路確保を試みましたが、硬くて骨髄針が曲がってしまいました(汗)。やり慣れない手技ですから、コツがつかめていないのでしょうか。気管内投与を念頭に気管挿管しました。並行して、大腿静脈確保を試みて、こちらが確保できたので、大腿静脈からアドレナリン1mgを投与しました。
また、心静止にはTCPは推奨されていませんが、病態的にペースメーカーも有効な可能性があり、TCPも試みました。もちろん胸骨圧迫を中断しないことを心がけました。アトロピンもG2010ではルーチンには推奨されていません(し、完全房室ブロックには効果はないかもしれません)が、有効な可能性もありましたので、投与しました。

その後自己心拍が再開しましたが、ご高齢な方だけに、その後もなかなか厳しい経過を辿りました。。。。


G2005にせよ、G2010にせよ、心停止ルゴリズムが提唱されています。それに準ずることは大切ですが、病態によりmodifyすることはいくらでもあります。重要なことは、HighQuality CPRを常に心がけることです。

例えば 、VF患者の生存退院率を上げるのは早期CPRと早期除細動のみである。他のACLSの治療、即ち、薬剤投与や、気管挿管などは、中には自己心拍再開率改善のデータを有するものはあるものの、生存退院率改善を示したものは全くない、とG2010に記載されています。
ただ、それらのデータは、High Quality CPRや蘇生後のケア(低体温療法など)が強調されるようになった時代以前のものであり、ACLSの各種治療がHigh Quality CPRや至適な蘇生後ケアとともになされれば、生存退院率改善につながる可能性がある、、、といった記載が続きます。

その通りだと思います。今後も、High Quality CPRや至適な蘇生後ケアの状況下での成績に基づき、新たな知見が出てくる可能性は十分にありますね。

2010年4月18日日曜日

昨日のTCP

中年男性。気分不良を主訴に近医診療所を独歩受診、脈拍が20bpmくらいしかなく、対応した先生が驚愕して、当院に慌てて転送してきてくれました。




完全房室ブロックで、補充調律が20-30bpm程と結構遅いです。血圧は110/くらいあり。つらそうではありますが、意識は清明です。著明なST変化は認めず、少なくともSTEMIはなさそう。直ぐに施行したちょい当て心エコーでも左室壁運動異常は認めませんでした。
症候性徐脈で、しかも完全房室ブロックであり、とりあえずTCPということで、新人後期研修医の先生にやって頂きました。パッドは、いわゆる除細動時と同じ位置に貼りました。とりあえず鎮静鎮痛せずに、出力を上げていったところ、50mAくらいまでは、「大丈夫です」。80mAくらいから、「結構来てます!」、100mA超えると、「先生、痛いです!」、140mAでようやくcaptureしたのですが、もはや「耐えられません!!!!」。
やむを得ず、TCPをoffとして、いつでも再開できるようなstand-by状態にしました。鎮静鎮痛剤を使用してTCPを再作動させることも考えましたが、その血行動態、呼吸状態への悪影響もちょっと心配だし、症候性徐脈といえど、最低限の循環動態を何とか保った状態だし、直ぐに経静脈ペーシングを入れる準備もできたこともあり、そのままHR20bpmの状態で早々にカテ室搬入としました。速やかに経静脈ペーシングを挿入して、一安心となりました。
ついでにCAGもしてしまいましたが、冠動脈に有意狭窄はなく、その他薬剤や電解質異常はど可逆的原因は明らかではありませんでした。恒久的ペースメーカーが必要そうです。

TCPの使用について、ACLSプロバイダーマニュアルには、「大部分の覚醒患者にはペーシング前に鎮痛薬を投与すべきである」「鎮痛薬を投与する必要がある」などと、よほど状態が悪い場合を除き、原則鎮痛薬を使用することを推奨しています。ACLSコースでもそのように指導しています。

ACLSコースと、現場での対応に乖離がないように、教育しつつ、自分でもそのような行動を心がけています。

しかし、その一方で、今回のような現場での対応。
後期研修医のon the job trainingの良い場面でありながら、循環器医としての、”まあ大丈夫でしょ。”の気持ちから、スタンダードな、ACLSプロバイダーに推奨されるような対応をしていない場面をお見せしてしまったことに、自分自身の矛盾さを感じました。
真似をされると、あまりよくないことでしょう。

循環器医とそうでない者で対応が異なってくることは当然のことではありますが、非循環器医や若い先生達に標準的な対応をして頂きたいと考えるのであるならば、自分が行って見せなければいけません。
そういえば以前も似たような記事かいていたみたい(笑)。反省不足(苦笑)。

2010年4月7日水曜日

接合部調律

洞不全が存在した場合など、時々見かける(房室)接合部調律。ちょっと振り返る機会がありました。

ACLSリソーステキスト(接合部性期外収縮)、PALSプロバイダーマニュアルなんかにも心電図の一例が載っています。
いずれも陰性P波がQRSに先行しています。





Chou's Electrocardiography in Clinical Practiceによると、接合部由来のリズムでは通常逆行性に心房を興奮させますので、P波はII,III,aVFでは通常陰転化します。前胸部誘導では様々な形態を呈します。
P波の出現タイミングは、上記のようにQRS波に先行することもあれば、QRSと重なって見えない場合、QRSの後ろ側に出現する場合、とバリエーションがあります。接合部と言ってもある程度範囲がある部位であり、その部位により変化するものと思われます。
QRSに先行してP波が出る場合は、通常PR intervalは0.11秒未満だそうです。

以下は同本に掲載されていた接合部調律の波形です。いろいろです。





だから、何ってことはありません(笑)。単なる確認です。

2010年1月12日火曜日

こんなの出てきた。



ゴミためのような自分の机周辺を掃除していたらこんな心電図モニターが出てきました。なかなかimpressiveです。
随分前の症例と思いますが、確か心電図上2束ブロックを呈している"失神"が主訴で入院された高齢者だったと思います。補充収縮が全くでずに、1分近くP波のみの"心静止”です。こんな時はTCPが大変役立ちますよね。

2009年11月22日日曜日

独歩来院

高齢男性。気分不良で独歩来院。血圧120/程ですが、徐脈。心電図とったら、ちょっとびっくり。

こんなに徐脈でも歩いて来院できることに驚きました。P派は判然とせず、洞不全+接合部補充調律でしょうか。
初期対応をした初期研修医はIV,O2,モニターして、除細動器/TCPをベッドサイドに用意しておいてくれました。すばらしい。AHA ACLSコースを受講してくれている研修医でした。
アトロピンをIVしつつ、TCPをいつでも作動させられる状態にして頚静脈ペーシングを挿入しました。結局腎機能悪化、高カリウム血症が背景にありました。

研修医や非循環器医には、TCPは躊躇なく作動させましょう、とお伝えしていますが、やっぱりTCPのあの痛み刺激は気になります。循環器医として徐脈自体のリスクを勘案して、作動させずに対応しましたが、研修医教育としてはあまり良い姿ではなかったかなとも思います。

2009年9月4日金曜日

またTCP

嘔気、めまいで来院した中年男性。内科対応。来院時は血圧140/、脈拍60台だったそうです。頭部CT等施行し問題なかったようですが、その後心電図を記録したところ、びっくり。
循環器科依頼。循環器後期研修医対応。
PEAか?というほどの激しい(?)心電図ですが、意識朦朧も、脈拍触知はできており、とりあえずTCPを装着、作動させたそうです。ペーシングの刺激のせいか、TCPによる脈拍上昇のせいか、意識も清明となり、カテ室に搬送し、頚静脈ペーシングを挿入しました。TCPを使ってくれたのはいつもの後期研修医(笑)です。もうTCPはお手の物です。

徐脈の原因は、虚血性心疾患患者であること、β遮断薬を内服していたこと、CKDに起因する高カリウム血症もあり、複数の要素が関与していそうです。

慌ててTCPを装着した後期研修医に対し、「循環器医ならこの程度の徐脈ごときに驚くな。」とのプロフェッショナル循環器専門医のフィードバックもありました。。。。。すごい。僕は、こんな心電図目の当たりにしたら驚いちゃいます。

2009年9月1日火曜日

今日もTCP

糖原病の若年男性。失神を主訴に救急搬送。診察室でも間欠的に高度房室ブロックが散見され、目の前で失神。素早くTCPを装着、作動し、事なきを得、経静脈ペーシングを挿入したそうです。
先日TCPの扱いが今ひとつだった、後期研修医。今回はばっちりでした、と満足そうでした。
やはり基本を学んだ上で、現場で手技を重ねることが上達への近道です。

糖原病、、国試以来久々に聞いた言葉です。。。。要勉強。

先日、強皮症に合併した高度房室ブロックもいました。。。要勉強。

全身疾患の一症状としての不整脈も少なくありません。

2009年8月26日水曜日

房室ブロックとアトロピン

昨日の完全房室ブロックの件。心電図が小さくて見えないかもしれませんが、来院時の心電図は心室レート(QRS)は30/分ほど、心房レート(P)は75/分ほどでした。アトロピン0.5mg IV後、心室レート(QRS)は20/分ほど、心房レート(P)は100/分ほどになりました。心房レート(P)が上がったのはアトロピンの影響でしょう。なぜ、補充調律(心室レート)が下がったのでしょう。単に、病状が自然に悪化していった結果なのでしょうか。

G2000ACLS プロバイダーマニュアルには、”アトロピンは3度房室ブロック、広いQRS幅の心室補充調律やMobitzII型の2度房室ブロックには適応はない。アトロピンは心房レートを速め、房室ブロックを悪化する可能性がある。”と書かれています。確かにアトロピンにより2度が3度になったり、高度ブロックの伝導比が低下したりすることはあると思われますが、心室補充調律への悪影響はないのでしょうか。

上記の補充調律(心室レート)の低下にアトロピンが関与していることはあり得ないのかな?と思って手元にある本などを調べてみていますが、まだ結論がでません。だれか教えて下さい。心臓生理学の理解が浅いですから(苦笑)。

たまには徐脈。

ふらつきとのことで受診された中年男性。やや徐脈とのことで循環器後期研修医が対応、
来院時血圧80台、心拍数50前後だったらしいのですが、12誘導心電図を記録してみると完全房室ブロック。
この時点では心拍数30/分前後となるも、自覚症状は強くなく、アトロピン0.5mgIVし、そのまま心エコーを施行。左室収縮は良好でSTEMIは否定。その後目の前で一度失神。意識清明に回復するも心拍数20/分前後。
慌てて除細動器を取り寄せるも、TCPのケーブルを忘れて、取り付けられず。結局心拍数20/分のままカテ室に搬入。この時点で僕も合流。
経静脈ペーシングを挿入準備をしつつ、ようやくTCPを装着、100mAほどでペーシング可能となったが、激痛を訴え、耐えきれず一旦中断。鎮静剤を用意したものの、すぐに経静脈ペーシングを挿入できたため、結局使用せず。

結果的には大きな問題となりませんでしたが、危うい橋をわたっています。

完全房室ブロック、特に補充調律が幅広いQRSの場合は油断できません。症候性ならなおさらです。心筋梗塞の有無を評価することも大事ですが、まず最優先にTCPを準備することが安全です。アトロピンの効果は期待できません。後期研修医には色々フィードバックしました。

一般的にTCPが本当に必要となる時はかなり切羽詰まっている時であることが多いですから、日頃からその操作に慣れていないと、肝心な時にうまく扱えないということが多いです。
この後期研修医は1−2年前にAHA ACLSコースを受講しているんですが。
いろいろな意味で考えさせられる出来事でした。



2009年7月4日土曜日

2度房室ブロックと迷走神経刺激手技

2度房室ブロックの話。PQ間隔が徐々に延長してQRSが脱落するのがウェンケバッハ型2度房室ブロック。


PQ間隔が一定で突然QRSが脱落するのがモービッツ2型2度房室ブロック。

前者の多くが房室結節の異常に起因するもので、後者が房室結節より遠位部の伝導系(ヒスプルキンエ系)に異常があります。刺激伝導系のどこに異常があるかにより、危険性が変わります。後者のほうが危険性が高いわけです。
2:1房室ブロック、即ち、QRSが一拍ごとに脱落する場合、どちらのタイプのブロックか分かりませんので、リスク評価がしずらいわけです。
そこで鑑別に役立ち得るのは迷走神経刺激手技、特に頚動脈洞マッサージです。迷走神経刺激は房室結節伝導を遅延させますが、ヒスプルキンエ系の伝導は遅延させません。2:1房室ブロック患者に頚動脈マッサージを行い、ブロックの程度が悪化したら房室結節に原因のあるブロック、即ちウェンケバッハ型に準じた病態と考えられます。ブロックの程度が改善したらヒスプルキンエ系に原因のあるブロック、即ちモービッツ2型準じた病態と考えます。
ヒスプルキンエ系に原因がある場合、頚動脈洞マッサージで心房のレートが減少することによりヒスプルキンエ系の伝導が改善しうるそうです。
頚動脈洞マッサージは頻拍性不整脈患者に対してのみならず、徐脈性不整脈患者の鑑別にも使用することがあるということです。僕はやったことありませんが(笑)。


2009年6月15日月曜日

相対的徐脈

relative bradycardia(相対的徐脈) という言葉がAHA ACLSプロバイダーマニュアルに出てきます。”基礎にある状態や原因から期待されるよりも脈拍が少ない状態(P82)”と記載されています。ACLS Resource Text P99には”低血圧、敗血症の患者が心拍数70/分の場合”が例として挙げられています。敗血症の患者なら通常もっと頻拍になっているはずなのですが、70/分しかないので、この患者にとっては遅い心拍である、ということです。
ACLSプロバイダーマニュアルを見る限り、相対的徐脈に対する対処も通常の徐脈アルゴリズムに従うようにも受け取れます。従って、相対的徐脈にもTCPやアトロピンを使う??という疑問も湧いてきます。一般的にはTCPはペーシングレート60/分で開始することになっていますが、70/分の相対的徐脈患者にはいくつで始めればいいの?なんて質問が受講生から出たりします。
この件に関する記載がACLS Resource Text P100にありました。
"It is important to note that attempts to increase the heart rate using chronotropic agents and pacing are not indicated unless drug toxicity or high-degree AV block is complicating the clinical situation."
(相対的徐脈において)薬物中毒や高度ブロックが併存していないのならば、陽性変時薬やペーシングを使用して心拍数を上げようとする適応はないことを頭に入れておくことが重要である。
Textにこのような記載があれば、自分の臨床経験と合致しますので、自然なインストラクションにつながります。
状況的に(昇圧剤として)カテコールアミンは使うことはあるかもしれませんが、それよりも何よりも大事なことは原因、即ちH'and T'の同定と是正でしょう。自分の経験では相対的徐脈は心停止寸前であることが多いですから迅速な対処が望まれます。

2009年6月13日土曜日

超高齢完全房室ブロック

徐脈、息切れ、下肢浮腫とのことで受診された患者さん。心拍数37bpmの完全房室ブロックでした。その他のバイタルサインは保たれていました。問診上は4月頃から息切れが増悪して、、、ということで恐らくその頃から発症した完全房室ブロックと思われました。2年前にも受診歴があり、この時は洞調律でした。
ACLS providerとしては、症候性徐脈で、かつ完全房室ブロックなら、TCPを遅れずに使用!、専門医へコンサルテーション!ということになります。それで全く問題ありません。
しかしながら、循環器内科の外来ではその限りではないわけです。経過や問診、診察所見等から急性のものか、そうでないのかを判断し、心電図の補充調律の安定性やQRS幅等から、ある程度のリスク評価をします。電解質異常もチェックが必要で、またACSや心筋炎など致死的疾患の潜在の可能性も常に気を使う必要があります。心臓超音波検査も速やかにできればなお安心です。
この患者さんも、軽い心不全を併発していますが、超緊急性はないと判断し、また諸事情あり外来対応としました。
AHA ACLSプロバイダーマニュアルの徐脈の項では「アルゴリズムの治療手順は、患者の症状の重症度によって決まる。」と記載されています。循環器内科医はこの重症度判断に長けているということだと思います。でも時々足もとすくわれて判断を誤ることがあります(汗)ので、慎重さを持ち続けることは重要と思っています。
この患者さん、医学的には恒久的ペースメーカーを入れるべきでしょうが、なにせ、95歳!(苦笑)。元気な方ではありますので、お勧めしましたが、ご本人はもう少し考えさせてくれ、と。でも100歳くらいまでたくましく生きていけそうな方でした。
超高齢社会に向け、今後もこのような方は増えるものと思われます(汗)。