2013年6月30日日曜日

CPR Quality 2: CCF>80%

CPR Qualityに関するAHA Consensus Statementについてです。

CCFとはChest Compression Fractionの略です。心停止時間のうち、胸骨圧迫がなされていた時間の割合です。心停止時間の定義は、心停止が初めて同定されてから自己心拍再開を達成できるまでの時間です。「中断を最小限」という概念はG2010から全くかわりませんが、「CCFを80%以上にしましょう」と新たな具体的数値を提示しています。CCF低値は、ROSC率低下や生存退院率低下と関連しています。

ただ、通常CPR中はCCFの数値を具体的に把握出来るわけではありませんので、終了後振り返ってみて数値の評価をするということになるのでしょう。CPR中は「胸骨圧迫中断は最小限」をひたすら実践することになります。

CCFを上げるためにCPR中に気をつけることは、主に以下のような項目が挙げられています。

1. チームワーク
ピットクルーのようなチームワークと、チームリーダーを中心としたクリアーなコミュニケーションが必要です。ちなみに、胸骨圧迫交代の際には、適切なコミュニケーションと準備にて3秒以内を達成できると書いてあります。

2. 気道確保時の中断を最小限にする
気管挿管の際にはしばしば胸骨圧迫が長時間中断されうることを忘れてはいけない。声門上デバイスは利用しうるが、気管挿管に比しアウトカムが悪化したとのデータもあります。BVMで適切に換気できていれば、高度な気道確保は「全く」必要ない、かもしれない、、、だそうで、「not….at all」になっています。熟練したプロバイダーが気管挿管するときは、なら、まずは胸骨圧迫を継続しながら喉頭鏡を使用し挿管してみましょう。中断が余儀なくされるなら、10秒以内を目指しましょう。

3. 不必要な脈拍触知を避ける
脈拍触知は、胸骨圧迫中断が長くなるし、そもそも精度が低いスキルです。動脈ラインやcapnography等によるモニタリングで脈拍触知の機会を減らすことができます。

4. ショック(除細動)前の中断を最小限にする
ショック直前には、胸骨圧迫の中断が長くなりがちです。プロバイダーの安全を考える必要があるからです。この中断を最小限にすることでアウトカムが改善しますので、この短縮は大変重要なことです。9秒くらい短くしましょう、、という数値が記載されています。。。。。が、9秒って長くないですか(笑)?もっと短縮できるといいですね。該当文献読んでいませんが、読んでみたいです。。。
パドルではなく、パッドを使えば、充電中も胸骨圧迫を継続しやすいので、これを推奨しています。その他、胸骨圧迫による心電図ノイズを軽減する機器などの新しいテクノロジーも役立ちそうです。
ショック後に胸骨圧迫をすぐに再開することも重要です。Stacked shock(立て続けのショック)をせずに、ショック後1-2分のCPRをした後にリズム解析を行う方法にしたところCCFが48%から69%まで増加し、生存率向上に関連したとのデータがあるそうです。このような具体的なデータを出すと説得力ありますね。


まあ、G2010と比し、目新しいところは、あまりない(笑)ですが、より具体的な表現になって来ており、その重要性が感じられますし、「実践」の指標になります。

2013年6月28日金曜日

CPR Quality 1: CPRの質向上の順序

CPRの質について、AHAからコンセンサスステートメントが出ています。

http://circ.ahajournals.org/content/early/2013/06/25/CIR.0b013e31829d8654.full.pdf+html

ざっくり読みましたが、なかなか興味深い記載が多いです。
中でも、以下は、すぐにでも参考になりそうです。

CPRの効果が不十分な場合、チームリーダーは次の順序で胸骨圧迫の質の適正化を試みましょう。この順序の根拠の1つは各々のエビデンスの強さです。

①胸骨圧迫時間/全蘇生時間(CCF) >80%
②速さ 100-120/分
③深さ >5cm
④フルリコイル
⑤過換気を避ける 胸郭挙上最小限、<12/分

中断時間を最小限にすることが最重要なことが分かります。胸骨圧迫の速さについては、速すぎると冠血流が減少する可能性があり、また目標の深さ(5cm以上)に達する割合が低くなる可能性がある、とのことで100-120/分を推奨しています。この範囲を下回っても、上回っても、生存退院率が低下する、と記載されています。あとの項目の内容自体はあまり変わっていませんね。

AHAガイドライン2010に記載されていない事項も含んでいますので、AHAコースで上記を話す必要は全くありませんが、頭の片隅に入れておくと世の中の為になるかもしれません。

上記文献、BLS/ACLSインストとして参考になることが多いので、英語の勉強だと思って、英語の苦手な方も読んでみると役立つと思います。

2013年6月27日木曜日

教育環境と状況判断

六本木ライブでふと思った事。日本で重症多枝病変にPCIをすることが多い理由は、「日本人はロジカルに物事を考える教育を受ける機会が少ない環境で育ってきたから」、という仮説。

複数の冠動脈に狭窄病変を有していたり(多枝病変)、特に左冠動脈主幹部という重要な部位に狭窄病変を有していたりすると、PCI(カテーテル治療)よりもCABG(冠動脈バイパス手術)が選択されることが世界的には一般的です。生命予後や、再治療を含めた治療回数、非致死的イベント、治療コスト、等が、PCIよりもCABGのほうが少ないからです。要は、良好な経過を辿る確率が高いわけです。
欧米ではそのような考えに基づいて治療選択されますので、CABGの割合が高いです。日本は、PCIの割合が高いです。多様な理由が混在している、例えば、欧米は重症多枝病変が多いとか、病院がセンター化されているので1病院あたりの症例が多く、CABGの技術が高いとか、器用でないのでPCIが上手でないとか、逆に、日本のCABGは症例が少ない施設であると技術が劣るとか、PCIは器用で上手とか、切られるのを避けたい文化とか、、、、。保険制度の相違も1つでしょう。確かに、その環境に応じた判断を最終的に下すことはあり得ることではあります。

日本の教育は、いわゆる受験勉強で、あまり考えない教育。即ち、「答え」があって、それを覚えて、試験で再現できれば成績良好、、、ということが主です、少なくとも我々の時代はそうでした。従って、あまりロジカルに物事を考えて行く習慣が成長過程で促されません。一方、欧米は、グループディスカッションや、ディベート等、自分で考えて、意見する、といった教育がとられていることが多いと理解しています。限られた情報の中で判断し、最善解、即ち相対的に最も確率の高い選択肢を選ぶ。そうでないと、人を説得することはできません。そのような習慣が、幼少時から根付いています。そのような背景がありますので、多枝病変に対する治療は、現在までに蓄積されたデータから判断すると、CABGを選択することが最も確率的に良かろう、という判断が導かれることは、当然のことです。日本は、何となく低侵襲だからPCIが良いのでは、とか、患者が希望しないからとか、一見最もらしい理由でCABGでなくPCIが選択されることが多いです。そこに明確なロジックが存在しない場合が少なくないと感じています。

最近「教育」に接する機会が多いせいか、自分なりに、これまでとは異なった切り口・視点で物事を見ることがたびたびです。

2013年6月26日水曜日

目的を忘れない

もうひとつ六本木ライブネタ。90歳弱の超高齢者、LAD CTOの他、LCXとHLにも病変あり。狭心症症状が増悪傾向、薬物抵抗性とのことで(当然CABGは年齢からムリ)やむなくPCIとなった症例。PCI適応自体は超高齢とはいえ、症状を取ってあげたいし、仕方の無いところです。。主に3つの病変がありますが、どの病変が最も狭心症症状を来しているかは不明です。PCIの目的は、症状を軽減してあげること。 その治療を、CTOから治療を開始することに異論はありません。しかしながら、石灰化と蛇行で思いのほかLAD CTOの治療に苦労しました。術者のCTO MasterのT先生でも、2時間経ってもワイヤー通過しません。ワイヤーは7本使用。 感じたことは、PCI中は「このPCIの目的」を常に忘れてはいけない、ということです。CTOが難渋するなら、他の狭窄病変のみ治療する方針もありでしょう。恐らく、経過からは、元々CTOがあり、それに加え、高度狭窄病変が新規に進行し、症状が強くなった、、可能性のほうが高いようにも思いました。従って、それら狭窄病変を治療すれば、少なくとも、悪化前の状態には戻せるし、QOLも回復することが期待できます。PCIをしていると、いつしか、その病変(今回の場合はLAD CTO)を治療すること、或はガイドワイヤーを通す事、、、が目的にすり替わってしまうことがあります。常に、元来の目的を意識し続けることが大事と感じました。 これは、PCIに限らないですね。人生もそう(笑)。 このライブ症例は、さすがCTO MasterのT先生、苦労の末ガイドワイヤーを通過させ、LADの血行再建に成功しました。さすが名人です。ライブだから、CTO Masterが術者だから、長い時間かけ、多くのデバイスを使い、手技を続けた、とも考えられます。ライブを見ていた聴衆も、自分を含め、T先生が、どのような技術でこの難関を超えるのか、見たかったし、期待もしていました。結果が良くて、良かったですが、結果論です。実臨床でこのような展開になれば、一般的には、CTO治療は断念する可能性が高いと思います。 ライブは、非常によい教育の機会でありますが、その一方で、”ショー”である面があることも否めません。患者さんにデメリットが生じないように留意することが必要です。そんな感想を抱いた症例でした。

2013年6月24日月曜日

六本木ライブの、とあるセッション、CTO症例。コメンテーターの1人がTハートセンターのN先生。ご存知の通り、Tハートセンターは世界を代表するCTO interventionalistsが複数所属するCTOでは世界一といっても良い施設。N先生自身はまだ若手ですが、そのような一流の環境に身を置いているせいか、CTO症例を見る眼が、真剣そのもの。食い入るような目つきは、明らかに他のコメンテーターと一線を画しているように感じました。コメンテーターとしてのコメントも的確で、ライブ術者にとっても貴重な情報も提供されていました。 人は、自分が得意とする分野や、自分が興味ある分野、には本当に真剣になります。他の人には見えないことも、見えてきます。プロとはそういうことなのでしょう。逆に、臨む姿勢が甘かったり、経験や知識が少ないと、見える物も見えません。 また、物事を学ぶには、一流の元で学ぶことが、最も効果的効率的と言えるでしょう。CTOにおけるN先生もまさにそうなのでしょう。CTOを学ぶには、CTOのspecialistから学びを得るのが一番です。カテに限らず、自分が学びたい分野、目指したい分野が明確なら、その分野で世界一の環境に身を置く事が、近道。 僕自身は、そんな環境に身を置いた事がありませんから、無責任な意見といえば、その通り。

2013年6月23日日曜日

六本木ライブデモンストレーション2013

前回投稿が2012年11月。久し振り。 先日久し振りのCTO(慢性完全閉塞病変)治療を行いましたが、「久し振り」ゆえに思うようなアプローチができませんでした。主な理由は「CTOとの接点が足りない」こと、と感じました。 手技向上維持するためには、多くの症例を頻回に経験することが最重要です。そうでなくともライブ等で”疑似”経験することも有用と思っています。当施設はいわゆる”カテ施設”ではありませんし、治療方針決定はガイドラインに近い(標準的)のでCTOの数も多くはありません。つまり、経験数がすくない。また、個人的に最近CTO club等学会やライブにもなかなか参加できず、"疑似”経験も少なめ。 これを是正すべく、昨日は心臓カテーテル治療の六本木ライブデモンストレーション2013に参加しました。心臓血管研究所付属病院からの中継です。心臓血管研究所の先生方は、このような教育的機会を多数開催しており、有り難いです。苦労も多いかと思いますが、カテーテル治療向上に役立っていることでしょう。今後も続けて頂きたいですね。 さて、ライブ内容としてはほぼ全例CTO症例でした。そのため、自分の目的に合致したプログラムで、特に個人的に苦手な順行性アプローチ症例中心でしたので、学ぶところは多々ありました。あまり細かく書いても、マニア過ぎますので書きません。 ただ、ライブ症例や、プレゼンに出てきた症例など、「標準的な治療方針としてはバイパス手術が妥当」、と思われるものが少なくありませんでした。それを、当たり前のようにPCIで治療すること、その点にあまり議論が及ばないこと、に大変な違和感を感じました。これは今に始まったことではなく、カテライブや学会ではいつも感じる事です。 その中で、今回更に衝撃を受けた言葉があります。とあるセッションの座長が 「最近の若い医師は(冠動脈多枝病変の患者に対し)教科書通りバイパス手術の話をしてしまう。残念だ。」 というような趣旨のことを話されました。即ち、「冠動脈多枝病変患者でも、バイパス手術の話などせずに、どんどんPCIで治療しようじゃないか!」ということです(苦笑)。 勿論教科書・ガイドラインが全てではないし、個々の病態や患者背景、環境などを考慮したうえで最終的な治療方針を決めることになりますので、多枝病変をPCIすることは当然有り得ます。しかしながら、限られた情報の中であれ、より良好な成績が期待でき得るバイパス手術の選択肢を提示することは、インターベンショナリスト、循環器内科医の「義務」と思っています。日本を代表するようなインターベンションの先生が、座長が、公の場で、このような発言をすることが、大変残念に感じられました。せっかくのライブデモンストレーションの価値も下げてしまうような、そんな発言と思いました。