2009年4月15日水曜日

NHKプロフェッショナル雑感

大木先生は、患者に”有り難う”と感謝されないと一日たりとも外科医はやりたくないだろうと言っていました。彼は”喜ばれるため”に外科医になったと言います。
世のため、人のため、献身的な態度で医療を提供している医師はたくさんいると思われますが、患者の権利意識の高まりなどにより、感謝されないことが増えてきています。結果が伴わないと医療ミス扱いされることもしばしばです。心が折れたり、燃え尽きたりする医師が増えているのも納得です。
大木先生のような超一流でなくとも、自らの命を削って診療をしている医師がたくさん存在し、日本の医療を支えていることに、世の中の人が少しでも気づいて頂けたらいいと思いました。
もちろん、医師としてはおごることなく、患者への思いやりと日々のスキルアップを忘れてはいけません。

NHKプロフェッショナル 大木隆生

4月14日NHKプロフェッショナルに大木隆生先生が登場しました。想像を絶するようなモーレツな忙しさに納得し、それ故の時間を大切にしている姿勢が垣間みられ、尊敬の念を感じずにはいられませんでした。
経済的動機付けではなく、使命感ややりがいをその原動力とし、ことにあたる。それでいて自己の利害、時には命もかえりみない。いわばアマチュアリズムの極地がプロフェッショナルではないだろうか、と発言していました。これからも、彼の生き様を注目していきたいと思います。
身体を酷使しすぎているようで、ちょっと心配になってしまいます。

余談ですが、私が大木先生に御紹介した患者さんが放映されていました。

2009年4月12日日曜日

JET、というよりは大木隆生教授


4月10日にJapan Endovascular Treatment Conference2009に1日だけ参加しました。全身の血管疾患の血管内治療に関する学会で、血管外科や循環器内科、脳神経外科、腎臓内科、放射線科などなど様々な診療科の医師らが一同に会する、貴重な場ではないかと思います。未曾有の高齢化社会が迫っており、"血管とともに老いる”という言葉通り、今後も血管病は爆発的に増えていくものと思われます。
ライブ自体にはあまり目新しいものはなかったのですが、プログラムに掲載されていた慈恵医大血管外科大木教授の記事を興味深く拝見しました。絵に描いたようなアメリカンドリームを成し遂げ、アメリカで確固たる地位を築き、年収も億単位であったそうですが、そのような立場から、敢えて年収1/10の慈恵医大の教授に就任したわけです。人間は地位やお金では満足は得られない。人間はつまるところ衣食足りて「ときめき」を求める、そうです。他人の赤ちゃんのベビーシッティング(外国人の治療や育成)をして高額な収入をもらうのと、年収は1/10でもわが子(日本の患者や慈恵の後輩)の育児をするのとどちらがやりがいを感じるか?
凡人には理解は遠く及ばないわけですが、それでも共感を覚える行動、言葉です。

以下はプログラムに掲載されていた記事(ドクターズマガジン2008年11月号の記事)からの抜粋です。

資本主義の宿命とも言えますが、アメリカは全ての側面で短期決戦の国。そのため、企業においては成果主義、経済的インセンティブで社員に競争させ、近視眼的な成果を求める。その結果、社員同士の連帯感は薄れ、個人主義がはびこる。社員は評価対象とならない仕事からは「Not my job」と言って手を引き、組織への帰属意識の薄れも手伝い、会社を転々とすることでキャリアップを図ります。このように本拠地を持たない社会、自己中心がまかり通る社会がアメリカです。人間の普遍的な欲望は人から感謝されることなのに、彼らは短期決戦で富を得るのと引き換えに、仲間からの感謝や社会への貢献による満足感を捨ててしまった。ですから経済的に恵まれていても、アメリカ人で本当に幸せで、心穏やかに暮らしている人は驚くほど少ないのです。個人の利害関係でつながっているゲゼルシャフトたるアメリカ。その集団の虚しさを知っているからこそ、利害とは無縁の友愛をベースにつながっているゲマインシャフト、いわば村社会を、慈恵医大の外科講座で形成していきたいと思っています。それは、アメリカの指向する物質主義や個人主義に対する僕のアンチテーゼであり、生涯をかけて求めるものでもあります。

抜粋終わり。
個人のスキルアップに励むことは大変重要ですし、現代社会を生きていく我々には絶対に必要なことと思います。しかし”人間はつまるところ衣食足りて「ときめき」を求める”ということを凡人達も胸にしまっておく必要があると思います。自分としては地位もお金もありませんが、「ときめき」を感じやすい職業であり、いままで胸に詰まっていたわだかまりがちょっとだけ解けたような気がしました。

2009年4月5日日曜日

Slender Club Japan in Tokyo


4月4日SCJ in Tokyoに参加しました。細いカテーテルを使用する低侵襲心臓カテーテル治療の研究会です。時間がおして、最後まで参加できず肝心のビデオライブを途中までしか見れなかったことが大変残念でしたが、それでも学ぶことがたくさんありました。
患者のために低侵襲な手技を目指す姿勢は大いに共感しますし、自分が目指ざすところでもあります。ただ、細いカテーテルを使用したために手技が不成功に終わった、或いは、余計なデバイスを多く使ってしまった、といったことは極力避けなければいけません。技術的に優れた術者が細いカテーテルによる治療を行うことは勿論良いと思いますが、そうでない人はやはり慎重にならなければいけないかなと、自分の経験も踏まえて、思ってしまいます。
slender deviceの開発は大変難しいようで、現状としては4Fガイドがある程度の限界と考えざるを得なさそうです。湘南鎌倉病院竹下先生が御勧めしていたelective 4 in 6は、大変印象深く、slenderな人以外にも今後広く認知されていくストラテジーなのではないかと思いました。

2009年4月4日土曜日

やっぱり怖い急性大動脈解離

以前も大動脈解離の話がでましたが、またです。
先日の話。50代男性が、胸痛を主訴に都内の有名T病院を受診されました。詳細は不明なのですが、帰宅の方針となりました。自宅への帰り道に胸痛が悪化、救急車要請。搬送中ショックとなり、当院に搬送されました。結論としては急性大動脈解離stanfordA型、心タンポナーデで、緊急手術になりました。
急性大動脈解離の診断は、難しいことが少なくなく、すぐには診断がつかないこともしばしばです。見逃した場合には致死的事態に直結しますから本当に恐ろしい病気です。患者にとっても、医師にとっても。胸痛、背部痛はもちろん、腹痛、腰痛、意識障害、麻痺、などなど多彩な症状を呈しうるので常に鑑別診断として頭の片隅においておくことと、少しでも疑ったら必ず造影CTを撮影することが大事と思っています。胸痛患者のアセスメントにおいては、非循環器医なら御自身で判断することなく、環境的に可能な限り循環器医にコンサルテーションすることが望ましいと思っています。