2009年7月3日金曜日

脳梗塞と急性大動脈解離


自分は循環器医であり正直なところ脳卒中患者の対応をする機会はあまりありません。しかしながらAHA ACLSインストラクターとしては脳卒中の初期対応について熟知しておく必要があります。経験不足を補う意味も含め、遅ればせながら先日日本脳卒中学会主催の「脳梗塞rt-PA適正使用講習会」を受講してみました。
循環器医として印象に残ったことの1つは、急性期脳梗塞における急性大動脈解離合併についてです。本邦で約2年間のtPA使用約7000例のうち10例が大動脈解離による脳梗塞患者であったということです(tPA投与後に大動脈解離に気づいた)。脳血管障害合併大動脈解離だけでも極めて重篤な事態ですが、それにtPAを投与すれば病態は当然悪化します。10例全例死亡したとのことです。(tPA使用しなくても亡くなったかもしれません)
このような事態を踏まえて、以下のような対処が勧められています。

【急性期脳梗塞における急性大動脈解離合併について】

脳梗塞は急性大動脈解離の約6%に合併しますが、急性大動脈解離症例の1055%には胸痛や背部痛がないことが報告されています(Neurology 2000;54:1010)。したがって、脳梗塞超急性期にすべての症例において大動脈解離の合併を否定することは困難です。

実際の対応としては、t-PA投与前に四肢の脈拍触知を確認すること(Neurology 2003;61:581)、胸部X線写真の撮影をできる限り施行すること(Stroke 1999;30:477)が望ましいと思われます。そして病歴(直前の胸痛,背部痛)や身体所見(血圧低下、末梢動脈拍動の減弱もしくは左右差、大動脈弁逆流性雑音)、検査所見(上縦隔拡大)等から、大動脈解離を疑う所見が得られれば、t-PA使用前に可能ならば胸部造影CT検査や頸部血管エコー検査を考慮する必要があります。



確かに難しい問題です。急性大動脈解離を見逃せば大問題ですが、しかしながら頻度は決して多くはないわけで、大動脈解離合併を警戒しすぎてtPA治療が必要以上に遅れてしまったり、適応を逃してしまっても問題です。
上記文書データの引用文献は読んでいませんが、IRAD reviewでは無痛性急性大動脈解離は全体の6.4%であり、比較的稀とされています。従って問診や病歴は大変重要でしょう。55%も無痛性だったという報告は驚きですね。また、例えば胸部X線で縦郭拡大を認めるのはIRAD reviewによると、急性大動脈解離(A型)の63%です(ちなみにB型は56%)。また、動脈触知 の異常があった例は急性大動脈解離(A型)で19-30%(B型は9-21%)です。脳血管障害を併発している場合は各々もっと高率になると思われますが、それらの所見を認めないということを大動脈解離を除外する根拠とするには少々不安が残ります。
迅速に施行でき、かつ精度の高い検査としては超音波検査(心臓、頚部血管)になるでしょうか。脳卒中を疑う患者全員に超音波検査をやりたい気分になります。ERに携わる医師にとって超音波検査の技術は極めて重要と改めて思いました。
そういえば以前、ある有名病院では、脳卒中患者は来院後早急に頚動脈超音波、心臓超音波(経胸壁、経食道)、経頭蓋超音波を全てルーチンでやるなんてことを聞いたことがあったのを思い出しました。

2 件のコメント:

  1. t-PA講習会を受けられたのですね。すごいです!!勉強熱心ですね!!

    私も受けたいです!!

    大動脈解離注意しないといけませんね。私は脳出血と解離とがあった人を経験しました。たぶん脳出血を起こして血圧が上がり、解離が起こったのだろうと言う事でした。

    色々診断は難しいですね!!

    これからも参考になる記事を楽しみにしています!!

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  2. kekimra99さん、有り難うございます。
    解離と脳出血の併発は珍しいですね!!びっくりです。

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