今更なのですが、そのウェブサイトのヘーと思った記事の一つに、2008年10月の軽症、中等症脳梗塞には酸素は禁忌である、という内容のものがありました。軽症、中等症脳梗塞患者には酸素を投与したほうが生存率が低かったという文献(stroke 1999;30:2033-2037)が引用されています。二酸化炭素が脳血管を拡張させ、酸素がある条件下では脳血管を収縮させる、さらに、高濃度酸素は活性酸素を増やし組織にダメージを与える、、、という機序は以前から言われているそうです。
恥ずかしながら、自分としてはそのような認識は持っていなかったので少々驚きました。へえー。
ACLSにかかわっているものとしては、非心停止だが、何らかの疾患がありそうな人に対し、「O2、IV、モニター!」とついつい条件反射的に対応してしまいます。一見して脳卒中を疑う方もついついそのように対処してしまいそうです。
気になるので、もういちど手元にある情報で再確認してみましたところ、いろいろ記載がありました。自分の勉強不足が露になりました。
AHA ACLSプロバイダーマニュアルP111には、「低酸素血症(酸素飽和度92%未満)の場合は酸素を投与する。低酸素血症でない患者にも酸素投与を考慮する。」と記載されています。
ISLSコースガイドブックP20には「(脳卒中)全例で酸素投与を開始する。酸素投与にはエビデンスはないが、低酸素により確実に二次性脳障害を助長するため、少なくとも低酸素血症が否定されるまでは酸素投与を行う」とあります。しかし、同P52には「低酸素血症のない軽〜中等症の脳卒中患者に対してルーチンな酸素投与は必要ではない」とあります。
日本脳卒中学会の脳卒中治療ガイドライン2004では上と同じ文献が引用されていますが、「低酸素血症が明らかでない軽症から中等症の脳卒中患者に対して、ルーチンに酸素を投与することが有用であるという科学的根拠はない」と、ややマイルドな表現に留まっています。
AHA ACLS Resource Text P166には、「低酸素血症患者には酸素投与するが、低酸素血症のない患者には酸素は勧められない。酸素飽和度はモニターし、92%以上を維持すべきである。」と記載されています。
2005AHA GL for CPR and ECCでは、低酸素血症患者(酸素飽和度92%未満)への酸素投与はclassI、低酸素血症でない患者に酸素投与を考慮することがある(classIIb)でした。また、酸素飽和度が不明の患者には酸素を投与すべきである、との記載もあります。
2007年AHA/ASA Guidelines for the Early Management of Adults With Ischemic Strokeでは、低酸素血症を有する虚血性脳卒中患者は酸素を投与すべきである(class I)。低酸素血症を有していない虚血性脳卒中患者は酸素投与は必要ない(class III)でした。
Up To Dateにも、低酸素血症患者には酸素投与すべきだが、低酸素血症のない患者には酸素投与すべきでない、と書かれています。
ちなみに、重症脳卒中の場合は、上記文献では有意ではないが酸素投与群の方が生存率が高い傾向があったようです。脳卒中治療ガイドライン2004には「重症の脳卒中患者に対する酸素投与について結論を出すには、更に研究が必要である」書かれています。私見としては、重症のほうが、軽症中等症より酸素投与による恩恵がやや大きいようで、とりあえずは投与して頂いてよさそうです。ただし、AHAのガイドラインには明確な記載はありません。上記文献では軽〜中等症はScandinavian Stroke Scale (SSS)score≧40、重症はSSS score<40としています。
自分なりのまとめとしては、以下のようになります。
・虚血性脳卒中患者が低酸素血症(酸素飽和度92%未満)を呈している場合、その悪影響は明らかであり酸素を投与することが必要。
・軽症、中等症脳卒中患者が低酸素血症を呈していない(酸素飽和度92%以上)ことが明確な場合、酸素投与しない。
・酸素飽和度が不明の場合は酸素投与する。
・低酸素血症を呈していない(酸素飽和度92%以上)重症脳卒中患者の場合は、酸素投与しても悪くはない。
・低酸素血症患者に酸素を投与しなかったという事態は避けるべき、という概念が、恐らくACLSプロバイダーマニュアルやISLSガイドブックのルーチン酸素投与を勧めるような文面の背景にあるものと推測する。或いは重症患者を含んだ上での表現なのかもしれない。
よい勉強になりました。
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