2009年7月31日金曜日

cardioversion後の肺水腫

稀に、cardioversion後に肺水腫になることがあるそうです。恐らく一過性左房機能低下や左室機能低下によるものと思われますが、エネルギー量とは関連はないそうです。うーん,よくわかりません。弁膜症性心房細動患者やもともと低左室機能の心房細動患者に多いです。

2009年7月30日木曜日

今日のcardioversion

糖尿病で入院中の中年女性。虚血性心疾患が強く疑われており、また軽度の大動脈弁狭窄症も併存しています。元々洞調律でしたが、頻拍性心房細動発作が生じました。血圧70/ほどのショック状態となったため、循環器科に連絡があり、後期研修医が対応致しました。不安定頻拍として、同期下電気的cardioversionを施行してくれました。二相性75Jで不成功、100Jで不成功、200Jでも不成功、「先生、戻りません。どうしましょうー」とヘルプ電話がありました。
現場に訪室してみると、確かにまだHR150bpm程の頻拍性心房細動で血圧も70台でした。患者さんは鎮静が効いており寝ていました。胸部にはジェルパッドが貼ってあり、パドルを使用しての手技だったようです。
除細動器はベッドサイドの右側、即ち患者の右側にありました。しかも患者はベッドのやや左寄りに寝ており、ベッドの右縁から患者の左側胸部はそれなりの距離がありました。恐らくこの距離であると、十分な圧力でパドルを胸壁に押し付けられないのでは?と瞬時に思いました。また貼ってある心尖部側のジェルパッドが、やや前方に位置しており、両ジェルパッド間の距離が近い印象を受けました。至適な除細動手技が行えていない可能性を疑いました。
除細動器をベッドの左側、即ち患者の左側に移動させ、患者に対し近づけ、パドルを無理無く十分押し付けられる位置に変えました。また心尖部側のジェルパッドを外側、中腋窩線上にずらしました。しっかりと心臓を挟むイメージで、両パドルをググッと十分胸部に押しつけ、200Jで再度cardioversion施行したところ、洞調律に復しました。おおーとの歓声(笑)。血圧は120/ほどにすぐに回復しました。

処置をしてくれた後期研修医には、心房細動は除細動されずらく、二相性100-120Jから開始するのがスタンダードであることはお伝えしましたが、それよりも、パドルを押し付けるだけのしっかりした力が入る位置取り(除細動器と自分の身体)が重要であること(除細動器は患者の左側に置くのが原則)、その上で十二分にパドルを胸部に押し付けること、パドルの位置は心臓を挟むイメージで、具体的には胸骨右縁・右鎖骨下と中腋窩線の腋窩下5-8cmの位置で行う方法が効率的なショックにつながること、をお伝えしました。
個人的には、ACLSコースでも、このへんはこだわりがあるところです。
コース以上に現場においては、目の前で結果が異なることをお示しできると更に説得力があります。

この方法なら200Jまで上げなくても戻ったかもしれません。
最近のこのブログネタからすると、エネルギーは必要最小限がよろしいですから(笑)。


2009年7月29日水曜日

脳卒中患者への酸素投与

よく拝見させて頂いているブログの一つ、AHA-BLSインストラクター日記の7月28日の記事に取り挙げられていた興部進歩の会というウェブサイト。これまた豊富な情報量で大変勉強になります。このようなサイトがあると、本当に有り難いです。ブックマークに追加しました(笑)。

今更なのですが、そのウェブサイトのヘーと思った記事の一つに、2008年10月の軽症、中等症脳梗塞には酸素は禁忌である、という内容のものがありました。軽症、中等症脳梗塞患者には酸素を投与したほうが生存率が低かったという文献(stroke 1999;30:2033-2037)が引用されています。二酸化炭素が脳血管を拡張させ、酸素がある条件下では脳血管を収縮させる、さらに、高濃度酸素は活性酸素を増やし組織にダメージを与える、、、という機序は以前から言われているそうです。
恥ずかしながら、自分としてはそのような認識は持っていなかったので少々驚きました。へえー。
ACLSにかかわっているものとしては、非心停止だが、何らかの疾患がありそうな人に対し、「O2、IV、モニター!」とついつい条件反射的に対応してしまいます。一見して脳卒中を疑う方もついついそのように対処してしまいそうです。
気になるので、もういちど手元にある情報で再確認してみましたところ、いろいろ記載がありました。自分の勉強不足が露になりました。

AHA ACLSプロバイダーマニュアルP111には、「低酸素血症(酸素飽和度92%未満)の場合は酸素を投与する。低酸素血症でない患者にも酸素投与を考慮する。」と記載されています。

ISLSコースガイドブックP20には「(脳卒中)全例で酸素投与を開始する。酸素投与にはエビデンスはないが、低酸素により確実に二次性脳障害を助長するため、少なくとも低酸素血症が否定されるまでは酸素投与を行う」とあります。しかし、同P52には「低酸素血症のない軽〜中等症の脳卒中患者に対してルーチンな酸素投与は必要ではない」とあります。

日本脳卒中学会の脳卒中治療ガイドライン2004では上と同じ文献が引用されていますが、「低酸素血症が明らかでない軽症から中等症の脳卒中患者に対して、ルーチンに酸素を投与することが有用であるという科学的根拠はない」と、ややマイルドな表現に留まっています。

AHA ACLS Resource Text P166には、「低酸素血症患者には酸素投与するが、低酸素血症のない患者には酸素は勧められない。酸素飽和度はモニターし、92%以上を維持すべきである。」と記載されています。

2005AHA GL for CPR and ECCでは、低酸素血症患者(酸素飽和度92%未満)への酸素投与はclassI、低酸素血症でない患者に酸素投与を考慮することがある(classIIb)でした。また、酸素飽和度が不明の患者には酸素を投与すべきである、との記載もあります。

2007年AHA/ASA Guidelines for the Early Management of Adults With Ischemic Strokeでは、低酸素血症を有する虚血性脳卒中患者は酸素を投与すべきである(class I)。低酸素血症を有していない虚血性脳卒中患者は酸素投与は必要ない(class III)でした。

Up To Dateにも、低酸素血症患者には酸素投与すべきだが、低酸素血症のない患者には酸素投与すべきでない、と書かれています。



ちなみに、重症脳卒中の場合は、上記文献では有意ではないが酸素投与群の方が生存率が高い傾向があったようです。脳卒中治療ガイドライン2004には「重症の脳卒中患者に対する酸素投与について結論を出すには、更に研究が必要である」書かれています。私見としては、重症のほうが、軽症中等症より酸素投与による恩恵がやや大きいようで、とりあえずは投与して頂いてよさそうです。ただし、AHAのガイドラインには明確な記載はありません。上記文献では軽〜中等症はScandinavian Stroke Scale (SSS)score≧40、重症はSSS score<40としています。



自分なりのまとめとしては、以下のようになります。

・虚血性脳卒中患者が低酸素血症(酸素飽和度92%未満)を呈している場合、その悪影響は明らかであり酸素を投与することが必要。
・軽症、中等症脳卒中患者が低酸素血症を呈していない(酸素飽和度92%以上)ことが明確な場合、酸素投与しない。
・酸素飽和度が不明の場合は酸素投与する。
・低酸素血症を呈していない(酸素飽和度92%以上)重症脳卒中患者の場合は、酸素投与しても悪くはない。

・低酸素血症患者に酸素を投与しなかったという事態は避けるべき、という概念が、恐らくACLSプロバイダーマニュアルやISLSガイドブックのルーチン酸素投与を勧めるような文面の背景にあるものと推測する。或いは重症患者を含んだ上での表現なのかもしれない。

よい勉強になりました。

2009年7月28日火曜日

Cardiovresion後の低血圧

しつこいcardioversionネタです。
cardioversion後数時間一過性の低血圧を生じることがあるそうです。多くの場合は治療は不要ですが、そうでなくとも輸液のみで通常回復するとされます。低血圧の機序は不明ですが、血管拡張と関連がありそうとのこと。へー。
ACLS的には、通常不安定頻拍に対してcardioversionを行います。従って、更に血圧が下がるとうことはまずないわけで(あったら困る(笑))、あまりこんなことは実感することはないでしょう。循環器医として安定症例に対するcardioversionの時はちょっと気にして観察してみることにします。

参考:Up To Date

2009年7月27日月曜日

除細動後の心機能低下

心肺停止患者をCPR(含除細動)し、無事蘇生できた場合も心機能(左室機能)が低下していることがあります。これは不整脈そのものの影響や心肺停止時の冠血流低下による虚血の影響などいくつか原因が考えられますが、一部は電気的除細動の影響もあり得ると言われているようです。
ある動物実験では、蘇生後の心機能低下の重症度が、除細動のエネルギー量と一部相関していたとのことです(Circulation 1997; 96:683)。
また別の動物実験では、より低いエネルギーでの二相性除細動はより高いエネルギーでの単相性除細動と同等の除細動効率であったが、除細動後の心機能低下の程度は二相性除細動を使用したほうが良かったとのことです(J Am Coll Cardiol 2001; 37:1753. )。
除細動で心筋マーカーが上昇することは稀ですし、左室機能低下が生じたとしてもごくわずかでしょうし、かつ一過性でしょうから、臨床的には無視できる程度のものと勝手に思い込んでいますが、やっぱり必要最小限のエネルギー量が良さそうです。

2009年7月26日日曜日

AHA Core Instructor Course



AHA Core Instructor Course(CIC)とは、コミュニケーションスキルやプレゼンテーションスキルなど、インストラクターとして必要な指導スキルの向上を目的としたコースです。非常に有用な学びが得られますが、かなりタフなコースです。AHAインストラクターになるためには受講する必要があり、その受講形態は主に3つです。インターネット、CD-ROM、クラスルーム形式。インターネットは英語のみ、CDROMは翻訳はあるものの基本は英語ですので、いずれも英語が得意でない方はなかなか難しいのが現状でしょうか。ただでさえ内容は盛りだくさん、かつ高度であり、特にインストラクション経験のない受講生は、十分理解することはかなり難しいように思われます。

JCS-ITCでは、このような背景を考慮し、しっかりと理解して頂くために、クラスルーム形式でのCIC受講を原則としています。これまで1日コース、約8時間で開催されていましたが後半になると疲労により受講生の集中力が低下し、肝心のUnit5あたりで息切れすることが少なくありませんでした。
今回は土曜日昼〜夕(5時間 Unit1-4)、日曜日朝〜昼過ぎ(4時間半Unit5-7)の2日間に分ける形で試験的に開催されました。少し時間に余裕があり、また2日にまたがることで疲労感も少なく、集中力があがり、理解力も多いに改善したような印象を受けました。
このような形態で今後も開催していくのかはまだ不透明のようですが、CICの濃い内容を十二分に理解させ、質の高いAHAインストラクターを育成していきたい、というJCS-ITCの心意気の象徴かとも思います。受講生の方々にとっては大変学びの多い2日間だったと思います。
スタッフ参加させて頂いた僕も大変勉強になりました。有り難うございました。
そしてお土産に頂いた、希少価値のじゃがボックルです(ふふ)。

2009年7月25日土曜日

北海道

今日はCICにスタッフ参加です。東日本全域からインストラクター、受講生が参加。北海道から参加された方が数人いらっしゃり、皆さんのおみやげで、充実したリフレッシュコーナーです。左から、じゃがポックル、ROYCE POTATECHIP CHOCOLATE (しかもホワイトチョコ!)、蔵生生チョコしっとりサブレ、六花亭マルセイバターサンド、北海道開拓おかき、北海道じゃがッキー、北海道チーズじゃがッキー。すごい! 皆様方のお心遣いが有り難いです。
写真の向きが変ですね。

2009年7月24日金曜日

残念。

拡張型心筋症に伴う原因不明の失神は突然死の高リスクであり,一方,拡張型心筋症では冠動脈疾患と異なり,電気生理検査で心室頻拍・心室細動が誘発されない場合にも心室頻拍・心室細動の発生頻度が高いことよ,原因不明の失神を有する拡張型心筋症では,電気生理検査にて心室頻拍・心室細動が誘発されない場合にも植込み型除細動器治療が妥当とする報告もみられる(日本循環器学会 不整脈の非薬物治療のガイドライン2006)


ちょうど同じくらいの年齢の2人の拡張型心筋症患者さん。ともに原因不明の失神をきっかけに、植え込み型除細動器(ICD)をお勧めしたところ1人の方は植え込み、1人は同意が得られずやむなく経過観察としていました。

時期を同じくしてお二方ともに遠出の最中にイベントが生じました。
ICDを入れていない方は突然死してしまいました。ICDを入れた方は、ICDが頻回に作動したようですが、何とか無事で現地の病院に入院されているとのことです。
対照的な結果になってしまいました。ICDの救命力はすごいです。亡くなってしまった方には、もっともっと強く強く強くICDをお勧めすれば良かったと思ってしまいます。残念です。ご冥福をお祈り致します。

2009年7月23日木曜日

Cardioversion後のST変化

cardioversionの直後にSTsegmentやT波の心電図変化が見られます。QRS幅やQT間隔は通常変化ありません。単相性除細動器よりも二相性除細動器のほうが変化の頻度や程度が低いそうです。通常心電図変化は5分のうちには改善します。
心室性不整脈に対するcardioversion(単相性)のある研究(Circulation 1986;73:73-81.)では、ST上昇15%、ST低下35%に見られ、その他T波増高も見られました。これらの変化の多くは非特異的なものであり、心室性不整脈を引き起こすような虚血変化とは言えないものと解釈されています。
心房細動、心房粗動に対するcardioversion(単相性)の研究(Am Heart J 1991;121:51-6.)でも19%にST上昇が見られましたが、1.5分以内に改善したとのことです。ST上昇の機序は不明で、心筋マーカー上昇が伴うことも稀です。心外膜剥離術後の患者は特にST上昇を呈し易いそうです。
ショック後の一過性ST上昇は我々の経験の中でも時々遭遇することですが、あまり気にしていませんでした。これを読むとやっぱり、気にしなくてもよいことみたいなので、よかったです。

参考:Up To Date

2009年7月22日水曜日

Cardioversionの徐脈性合併症

Cardioversion直後、25%の患者で徐脈になるそうです。Cardioversionで副交感神経亢進状態を呈するためです。下壁梗塞の既往のある方、複数回のショックが必要だった方、β遮断薬を服用していた方で頻度が多いようです(Mayo Clin Proc 2001;76:364-8)。
Cardioversion後に一過性に左脚ブロックを呈したり、高度房室ブロックを呈することもあります。
ある研究ではCardioversion後、24%で洞性徐脈となり、15%で高度房室ブロックになったといいます(Am Heart J 1980;100:881-95)。7.5%が一過性ペースメーカーが必要でした(!)。抗不整脈薬投与されている方が、徐脈になりやすかったようで、このような方に対しcardioversionを試みる場合は体外式ペースメーカーを準備しておくべきである、と結論されています。
”Cardioversionの合併症”と表現するのは適切ではないかもしれませんが、留意しておくべき事項であることは間違いありません。

参考:Up To Date

2009年7月21日火曜日

Cardioversionの頻脈性合併症

Up To Dateによると、カルディオバージョン後不整脈を生じることが少なくありません。
カルディオバージョン後の5%の患者に非持続性心室頻拍が生じたとの報告があります(Circulation 1986;73:73-81.。冠動脈疾患を有する人に生じ易いようで、カルディオバージョンそのものが原因で生じるということではないような気がしますが、ただし、(植え込みデバイスによる)internal cardioversionでは生じなかったとのことです。
カルディオバージョン後心室細動を生じることもあります。非同期の時に生じることが多いですが、適切に同期をかけていても生じることがあり得るそうです(Circulation 1964;30:163-70.)。
心室性不整脈はショックの数とは関係なく、また抗不整脈薬で予防することもできません。
ジギタリス中毒患者の時には心室細動を含め、心室性不整脈が生じ易く、カルディオバージョンは原則禁忌です。
その他、心房細動へのカルディオバージョンで、上室性頻拍(AVNRT)や心房粗動になることもあるそうです。
何が起きようとも、必要あればショックするしかないですよね。

2009年7月20日月曜日

虚血性脳卒中に対する線溶療法のタイムリミット

AHA Instructor NetworkやAHA Journal 「Stroke」をよくチェックしている方にとっては今頃、、、という話です。僕はこのたび初めて知りました(苦笑)。
虚血性脳卒中に対する線溶療法の適応は厳しく、発症から3時間未満でなければtPAは投与できません。しかし、2009年5月末に「Stroke」にその制限時間を延長するとの報告がなされました。


「発症3-4.5時間ならtPAを投与すべきである(クラスI 推奨)」
ただし、通常の除外基準に加え、特異的な除外基準があり、80歳以上、抗凝固薬服用(PTINR<1.7でもだめ)、nihss>25、脳卒中と糖尿病双方の既往です。
発症3-4.5時間で、かつこれら除外基準に当てはまってしまう方へ線溶療法の効果については評価不十分であり、クラスIIBだそうです。
発症時間で引っかかり、tPAを投与できない方は多いようですので、これでもう少し恩恵を受ける方が増えれば良いですね。
AHA Instructor Networkにはこのエビデンスはthe AHA ECC Evidence Evaluation processでまだレビューされていないが、ガイドライン2010には正式に取り入れられるであろうと書かれています。現状ではAHA ACLSコースでは特に言及しなくても良いんでしょうが、頭の片隅には入れておいてもよい事項ですね。

2009年7月19日日曜日

電気的除細動による心筋マーカー上昇

電気的除細動やCardioversionといったショック治療の結果、心筋壊死を生じることはあり得ることのようです。ショックを繰り返すことでも心筋ダメージを来すかもしれないが、ショックの回数よりも各ショックのエネルギー量の影響が大きいそうです。
ショック後にトロポニンTやトロポニンIが僅かながら上昇したとする文献はあります(Am J Cardiol 1997 ;80:1367.)が、38人に平均300Jのショックを行い、3人のみにわずかな上昇を認めた、程度のことのようです。
他方、平均400Jでのショックを試みた72例ではトロポニンTやトロポニンIといった心筋マーカーは上昇しなかったとする文献もあります(Eur Heart J 2000;21:245.)し、その他にもトロポニンTが上昇しなかったという文献がいくつかあるようです(Am J Cardiol 1986;57:120.,Am J Cardiol 1988;62:1202.)。従って、除細動やcardioversion後に著明にTnTやTnIが上昇した場合は、ショック治療以外に原因があると考えてよさそうです。僅かなCKMB上昇を呈することはありますが、これは心臓由来でなく骨格筋由来である可能性が高く、心筋障害の証拠にはならないとされます。

以上のように、ショック治療により大きな心筋ダメージは呈することはなさそうですが、それでも心筋ダメージを最小限にするためにショックとショックの間は少なくとも1分はあけるように推奨する者もいるそうです、ずいぶん古い文献ですが(Circulation 1974;50:956–61.)AHA/ACC/ESCの心房細動のガイドラインに引用されていました。

【まとめ】
電気的除細動やCardioversionで心筋壊死が生じることはあり得るが、頻度は低く、傷害の程度はあったとしてもごく僅かである。現場ではあまり神経質に考慮する必要はないが、ショックのエネルギー量は必要最小限にすることが望ましい。

参考:
Up To Date

ACC/AHA/ESC 2006 Guidelines for the Management of Patients With Atrial Fibrillation

2009年7月18日土曜日

今日もTOPIC


本日も昼前からTOPICに参加しました。主にライブデモンストレーションを見させて頂きました。難しいCTO(慢性完全閉塞)を当たり前のように開ける達人先生方の技術は本当に素晴らしいです。流行のRetrograde approachも素晴らしいですが、それが難しい時にantegrade approachに戻って結局開通させるclassicな技術。それが達人先生方の確たる礎になっていると改めて認識しました。
気になることと言えば、1枝病変の回旋枝の難しいCTOに敢えてチャレンジしたり、しかもそれが80歳代の高齢者だったり、といった常識的にはPCIから受ける恩恵は少ないのでは?というような症例のライブやその他プレゼンテーションが目につきました。
STEMIを代表とするACSへのPCIはともかく、待機的なPCIではその有効性が疑問視される報告が少なくない現状ですから、適応はしっかりと見極める必要があると、自分も含め、改めて思い直しました。

2009年7月17日金曜日

TOPIC2009


7月16日〜18日渋谷でTOPICというカテーテル治療の学会が開催されています。元々は心臓カテーテルの学会でしたが、今や下肢動脈や腎動脈、頚動脈など全身の血管治療についても盛んに行われています。今日は夕方前頃からの参加になりましたが、到着時に丁度講演中だった、小倉記念病院の横井先生の頚動脈ステント(CAS)のお話が大変印象的でした。頚動脈の狭窄に行うステント治療のことであり、脳梗塞を予防します。
日本ではCASは主に脳外科医が行っていますが、欧米では循環器医が行っていることが多いです。CASの際には反射で徐脈や低血圧が生じることが多いので循環器医が対応するほうが安全です。特にCASの適応となる患者は冠動脈3枝病変など重症心疾患を有している患者が少なくなく、低血圧が遷延すると容易に致死的事態におちいり得ますので、慎重な対処が望まれます。また使用されているフィルターデバイス(Angioguard XP)は014ワイヤー(細い)であり、冠動脈のワイヤーと同じ太さであり、その扱いは循環器医が圧倒的に慣れています。循環器医以外の血管治療医は035や、細くても018程度までのワイヤーの扱いが中心です。また、一部の血管内治療専門の脳外科医は別として、多くの脳外科医は通常の脳外科業務の傍らCASも行うので、経験症例数も決して多くなく、技術の向上も必ずしも速やかではないと言います。反面、数多くのPCIを施行している循環器医はカテ操作に関しては技術的に優れていることは当たり前のことです。もちろん頚動脈へのガイドカテの挿入など不慣れな面はありますが、基本技術がしっかりしているので上達は早いでしょう。CASの適応となる方は冠動脈以外にも下肢や腎動脈など全身の血管にも問題を生じていることが少なくなく、これらのスクリーニングや必要に応じ治療をすることを考えると、やはり循環器医が対応しやすいとも言えます。またこれらの患者は高血圧、高脂血症やその他の冠危険因子のコントロールが必須です。この辺も循環器が得意とする面です。

などなど、CASを循環器医が行うことの妥当性、必要性を挙げておられました。そして、脳外科の先生方にCASをお任せしていることは患者さんの為にならない、患者さんのために循環器医がCASを行うべきである、というようなニュアンスの結びをしていました。
かなり説得力のあるお話でした。水が上から下に流れるように、循環器医もCASをすべきであると言われているような気がしました(笑)。
脳外科の先生方がお聞きになると、勿論反論はあるでしょうが。。。
決して、脳外科の先生方を非難、卑下するものではありません。脳外科の先生方はただでさえ激務のなか、更に新たな分野の血管内治療にまで手を出すのも大変かとも思います。循環器医と脳外科医が互いに協力することで効率よく最高の治療を提供できれば良いわけです。
というわけで、一時興味があったものの最近は忘れかけていたCASにまた興味が湧きました。

不安定PSVT

寝たきりの超高齢者。担癌患者でもあります。意思の疎通もできず、御家族も一切の侵襲的治療を希望されていません。そんな方がQRS幅の狭い頻拍(HR170bpm程、RR間隔整)を呈し、血圧70-80/とショックになりました。ACLSで言う不安定頻拍です。心電図的にはPSVTが疑わしいです。不安定頻拍ですから一般的には電気的カルディオバージョンをまず考えます。でも鎮静かけて、呼吸が止まったりしたら気管挿管が必要になってくる可能性もあるし、でも家族は気管挿管はしないでほしいと言っています。対応した後期研修医は悩みました。電気的カルディオバージョンをしたいところですが、アデホスを使ってみてよいですか?と相談されました。
大変正しい考え方です。AHA ACLSプロバイダーマニュアルにも「狭いQRS幅のSVTがある不安定な患者には、同期下カルディオバージョンの準備中にアデノシンを投与する」とあります。ただし、極度に不安定な患者の場合は、アデノシン投与のためにカルディオバージョンを遅らせてはいけません。
この方の場合、アデノシン5mgを投与し無事洞調律に回復しました。血圧も130/ほどに上昇しました。
治療希望しないんなら、アデノシンもカルディオバージョンも不要なのでは、、、とも思いましたが。それでも何とかしてあげようとする後期研修医の正義感には感心します。

2009年7月15日水曜日

動脈瘤破裂のPEA

高齢男性。朝より自制内の腹痛あり。夜仕事中に突然意識消失、椅子に座った状態で机にうつ伏せになった。うなり声あるも呼名に反応なく救急要請。当院搬入時血圧70/、HR100台、意識レベル3/JCS。腹痛あり。心電図は洞性頻脈、腹部エコーで液体貯溜あり、大量輸液しつつCT撮影。内腸骨動脈瘤破裂でした。その後手術の準備をしつつ大量輸血。一時PEAとなり心臓マッサージ、エピネフリン、アトロピン投与。ACLSコースのシナリオのようです(汗)。
自己心拍再開、大腿動脈からocclusion catheterを挿入し、瘤切除、血管吻合再建術施行となりました。たくさんの先生方の力で対処されています。
瘤破裂でも出血の仕方でだいぶ経過が違います。出血が止まり、落ち着いたバイタルで手術に持ち込めるケースもありますが、そうでないケースもあります。紙一重なんでしょうが。今回はかなり出血量が多く、苦労したようです。
このようなケースは緊急経皮的ステントグラフト挿入で対処できれば、よりスムースな治療が可能と思いました。この辺の最近の動向はあまり詳しくないのですがきっと、今後は増えていくと思われます。

2009年7月14日火曜日

右冠動脈の急性心筋梗塞のPEA

中年男性、自宅で卒倒。卒倒したところは目撃されていなかったのですが、一応バイスタンダーCPRあり。救急隊現着時は心肺停止、PEAであり、ショックの適応はありませんでした。その後経過中にVFになり2度AEDを作動させ、当院救命センター搬入時は自己心拍再開していました。意識は回復していませんが、血液ガスデータはあまり乱れていなく、心肺停止時間は短かったと推測され、回復が期待できます。
搬入時の12誘導心電図は2,3,aVFでST上昇。緊急冠動脈造影では右冠動脈中部の完全閉塞、ほぼ1枝病変でした。PCIを行い、低体温療法です。
右冠動脈の急性心筋梗塞による心肺停止例でした。
単なる1枝病変の急性心筋梗塞でもやっぱりPEAになるんですね。6月27日のブログのように、右冠動脈だし、強い反射(Bezold Jarish reflex)によるものだったのでしょうか。心肺停止の機序は大変興味があるところです。
患者さん、回復することを期待しています。

2009年7月13日月曜日

診断が難しかった急性冠症候群

循環器医ですから胸痛を訴えて救急外来を受診する患者の対応をすることは大変多いです。急性冠症候群の多くは問診で診断がつきます。心電図、心エコーを組み合わせればほぼ万全です。そんなことを10年以上やっていますから、本物の急性冠症候群患者を見逃すことはまずないと思っていますが、こんなことがありました。
中年男性。数年前から月に1度くらいの頻度で起こる、持続時間10秒程の胸苦しい感じ。30秒くらい続くこともあるが水を飲むと治まるとのこと。労作時には起こらない。
内科でホルター心電図を施行し、装着中にも同症状が数回生じているが、いずれも心電図変化は伴わず。冠危険因子は高脂血症のみ。
今回はいつもと同じ症状だが少し長く(1時間くらい)続くとのことで救急外来に救急車で搬入。有症状時の救急隊心電図モニターはST変化なし、病的不整脈なし。当院受診後の症状は軽減傾向とはいえ、まだ持続。有症状時の12誘導心電図はほぼ正常。同心エコーでも左室壁運動異常なし。もちろんトロポニンT定性検査も陰性。

来院後間もなく症状は自然消失。心電図経時的変化なし。胸部単純レントゲンで縱隔に異常陰影を疑う所見あり、念のため胸部造影CT撮影、結果的には問題なし(ついでに急性大動脈解離も否定できた)。胸部症状の原因は不明だが(消化器系由来の可能性が高いと推測)、リスクは低いとして帰宅させました。

しかし、その後も自宅で同じ症状を繰り返したようで、数日後に症状が1-2時間続くとのことで再度来院。来院時胸部症状持続、すぐに記録した12誘導心電図ではST上昇していました。


緊急冠動脈造影では左冠動脈前下行枝近位部90%狭窄の1枝病変。急性冠症候群に矛盾しない造影所見でした。引き続きPCIを施行しました。その後の経過は幸い順調です。

かなり診断が難しい方だったと思います。

今回初めに救急外来受診されたときは、①虚血性心疾患としては非典型的な症状②有症状時の心電図変化なし③有症状時の心エコーも左室収縮異常なし④心筋マーカーも上昇せず
ということで、虚血性心疾患ではないと確診し、少なくとも低リスクとして帰宅させました。
結果的には、そのときも心筋虚血症状だった可能性が高いでしょうか。それとも、そのときは非心筋虚血だったのでしょうか。心筋虚血なら、なぜ(異常が出易い左前下行枝なのに)客観的異常所見が伴わなかったのでしょうか。。。。。症状が軽減していたので、心電図やエコーでの所見が分かりにくかったのでしょうか(収縮能評価の限界?やっぱ拡張能か)。有症状とはいえ、症状軽減時の心電図、エコー所見の評価は一見異常がなくとも、(左前下行枝であっても)虚血は否定できないと考える必要がありそうです。
虚血性心疾患ではないと考えたため、後日の負荷検査も予定しませんでしたが、一応予定すべきだったと反省しました(負荷検査中に危険を生じるかもしれませんが、自宅で発作を繰り返すよりはましだったと思います)。
本人が”同じ症状”と表現しても、実は異なる原因による症状が混在していることもあり得ます。本当の急性冠症候群の発症はいつだったんでしょうか。
いろいろ思い悩んで、記事を一度upしてからもまた書き直ししています。

いずれにしても、患者さんの経過は良好なのでよかったです。
年はくっても、日々学ぶことが多いです。次に活かします。

2009年7月12日日曜日

電気的除細動の際、1インチ(2.5cm)離す理由

Current2009春号に掲載されていた、ネックレスなどの金属製アクセサリーを付けている人へAEDを使用する場合の記事。「金属製アクセサリーは傷病者にも救助者にもショックの危険をもたらさないため、こうしたアクセサリーの着用は特殊な状況(注:AEDを使用してはならない状況、または使用前に新たな措置を要する状況)に含まれない」「傷病者の胸部から金属製アクセサリーを外す必要があるというエビデンスは存在しません。植え込み型医療機器と同じように、傷病者の胸部にパッドを貼る時は金属製アクセサリーの上に直接貼らず、2.5cm以上離れたところに貼る必要があります」とあります。

ペースメーカー(含ICD)が植え込みされている患者に電気的除細動を行う場合、パッド(パドル)はデバイスから1インチ(2.5cm)以上離すことが推奨されています。ペースメーカーの上にパッド(パドル)を置くと心臓に達するエネルギーが著しく低下するため、またペースメーカー本体にも負担がかかるため、好ましくないことは納得できます。ペースメーカー本体の上にパッド(パドル)を置かなくとも、あまりに近いと同様にペースメーカー本体に負担がかかることも理解できます。また、本体のみならずペースメーカーから出ているペースメーカーリードに近い所にパッド(パドル)を置くと、リードに沿って電流が流れ易くなり、ペースメーカー本体に負担がかかり易く、同時に心臓へ達するエネルギーも低下してしまう可能性もあります。1インチという数値自体は根拠はなく、覚え易いからということのような気もしますが、いずれにしても、1インチ(2.5cm)離すとリード経由のものも含め、ペースメーカー本体への負担が軽減し、かつ心臓への至適エネルギーが達し易いと考えます(理想はもっと離した方が良い(参考:ペースメーカー(ICD)植え込み患者への除細動パッド貼布位置))
それでは、なぜ金属アクセサリーから1インチ(2.5cm)離すことが推奨されるのでしょうか。
金属アクセサリーはペースメーカーのように精密機器ではないし、もちろんリードもくっついていないし。。。。。
アクセサリーにパドルが触れたまま放電すると火花が散ったり、火傷したりする可能性があるから、離しましょうということでしょうか。触れていなければ大丈夫でしょうが、念のため1インチくらい離しておきましょうということ? とすると、”植え込み型医療機器(ペースメーカー)と同じように”とかかれていますが、ペースメーカーの1インチ(2.5cm)とは微妙に意味合いが違うのでしょうか。

【まとめ】
・ペースメーカーから2.5cm離す:①ペースメーカーへの負担を減らす(離せば離すほど負担は減る) ②リードによるエネルギー低下を軽減する可能性

・金属アクセサリーから2.5cm離す:パッド(パドル)との接触による火花や火傷を予防する(少しでも離れていれば問題ない?)


相変わらず、どうでもいい話ですが(笑)、間違っているようなら教えて下さい。

2009年7月11日土曜日

AHA BLS for HCP course後。ただし酔っぱらい。

今日はBLS for HCP courseでした。開催前はインストラクター不足でかなり困って、奔走しましたが、いろいろな方の協力で無事にHigh Qualityなコースを行うことが出来ました。
御懐妊のインストラクターの方にもスタッフとして御協力頂き、また遠方の群馬からもスタッフとして循環器の先生に御参加頂きました。敏腕ACLSインストラクターの先生にも御協力頂きました。スタッフ業務をたくさんして頂いちゃいました。
さいたまからナイスインストラクションを披露して頂き、そしてもちろん、いつもの当院スタッフも本当に良く活躍してくれました。
何となく、かなり嬉しい夜です。みなさん、有り難うございました。
コース後は、沖縄料理屋で懇親会。
酔っぱらっていますので、明日の朝この文章を読むと恥ずかしくなるかもしれません。
まあいいです。
明日はBLS-Rです。明日も宜しくお願い致します。今日はもう寝ます。おやすみなさい。

cardioversionの合併症

頻脈性不整脈への治療の話。抗不整脈薬は重篤な副作用が少なくありませんが、電気的カルディオバージョンは副作用はほとんどありません!、などとコースで言っている訳ですが、調べてみると、合併症ってあるんですね。
UP TO DATEには以下のような"complication"の記載があります。この羅列だけ見ると、怖い(笑)。根拠となる文献は読んでいないので鵜呑みにはできませんが、これについてはまたぼちぼち書いていこうと思います。

Electrocardiographic changes 心電図変化

Arrhythmia and conduction abnormalities 不整脈、伝導異常

Embolization 塞栓症

Myocardial necrosis 心筋壊死

Myocardial dysfunction 心筋不全

Transient hypotension 一過性低血圧

Pulmonary edema 肺水腫

skin burns 皮膚熱傷

physical trauma 外傷

2009年7月9日木曜日

日本循環器学会(JCS-ITC)関東甲信越支部 BLS , ACLS 講習会ホームページ


別にこだわりはないのですが、一応自分のAHA BLS、ACLSの活動拠点は日本循環器学会、JCS-ITCです。日本循環器学会は日本全国で各支部に分かれており、JCS-ITCとしても一応その各支部に分かれて活動しています。自分は、JCS-ITCの関東甲信越支部に属していることになります。このたび、そのJCS-ITC関東甲信越支部のホームページが公開されました。実は1ヶ月も前に公開されていたのに、恥ずかしながら認識していませんでした(苦笑)。まだ工事中のページが多いのですが、早々に整備されていく予定のようです。
トップページの、

      JCS-ITC MISSION
           心停止を予防し、
             救命率を改善し、
               後遺障害を軽減すること

は結構気に入っています。

でも実は、
     BLS for HCP     ¥15,000
     ACLSプロバイダー ¥32,000
     BLS for HCP 更新コース  ¥8,000
     ACLSプロバイダー更新コース ¥18,000

のほうがインパクトがあったりして(笑)! 日循は本気です!と言えば聞こえはいいですが、結構この値段設定でやっていくのって大変なんですよね。

安くすることが良いのか、悪いのか、わかりませんが、まあ、とにかく試行錯誤しながらでも心肺蘇生術が世に広がるような環境を皆で作っていくことが大事です。

2009年7月8日水曜日

うざい

なんか、文字ばかりのうざいブログになってきた気がします。もうちょっと読み易いものにしようと思います(笑)。

cardioversionという言葉

cardioversionに該当する日本語はないように思います。リーダーズ英和辞典で引くと、『(医)電気的除細動、カルジオバージョン(不整脈治療のために電気ショックを与えること)』と記載されています。
一般的には頻脈性の不整脈を電気的に元の調律(多くの場合は洞調律)に戻すことを指すと思われます。心室細動に対する除細動(defibrillation)とは区別されるでしょう。
ただ、このcardioversionという言葉自体やや幅がある表現のように思います。
AHA G2005ガイドラインやACLSプロバイダーマニュアルではsynchronized cardioversionという表現もあれば、単にcardioversionという表現もあります。cardioversionの中に"synchronized;同期”をも含んだ意味で使われることもあれば、含まないような表現をされることもあるということと解釈できそうです。
また、synchronized shocks(cardioversion)とも記載されています。ちなみに、unsynchronized shocks(difibrillation)の記載もあります。
ACLS Resource Text には、electrical cardioversionとか、synchronized cardioversionとか、単にcardioversionとかやはりバリエーションがあります。”shock”を使った記載もあり、shock自体にエネルギーは問わないように解釈でき、より丁寧に表現すれば、
high energy unsynchronized  shock =defibrillation
low energy synchronized  shock =cardioversion
こんな感じでとらえることもできます。
The Textbook of Emergency Cardiovascular Care and CPRもほぼ同様です。shock therapy(cardioversion or defibrillation)と表現され、更に、
cardioversion=synchronized electrical shock
difibrillation=unsynchronized  shock
とあります。synchronized cardioversionの表現もあります。
AHA/ACC/ESCの心房細動のガイドラインには、direct-current cardioversion、R-wave synchronized direct-current cardioversion、単なるcardioversionなどのバリエーションです。
その他、direct-current countershock、external countershockなどの表現もありました。
UP TO DATEは以下の記載です。
Cardioversion is the delivery of energy that is synchronized to the QRS complex, while defibrillation is nonsynchronized delivery of energy, ie, the shock is delivered randomly during the cardiac cycle.
やはりcardioversionの中にはsynchronizedの意味が含まれているようです。でも
synchronized external DC cardioversion という表現もあります。
一方で、薬物的に調律を戻す方法として、 pharmacologic cardioversionなる表現もあります。cardioversionは"electrical"という意味を含んだ場合と、そうでない場合、即ち単なる調律変換という意味である場合があるということでしょう。
前出のAHA/ACC/ESCの心房細動のガイドラインでもpharmacologic cardioversionという言葉は出てきて、Cardioversion may be achieved by means of drugs or electricalshocks.(カルディオバージョンは薬物的に或いは電気的ショックにより成し得る)、と単に調律変換を指している文面もあります。
なんだか、よくわからなくなってきました(笑)。

まとめますと、Shock therapy(direct-current countershock、external countershock)は、synchronized shock(=cardioversion)とunsynchronized  shock( =difibrillation)に分けられて、cardioversionは狭義には”elctrical(電気的に)”、”synchronized(同期下に)”調律を戻すこと、と解釈できます。ただ、電気的に調律を戻すこと、或いは同期下に調律を戻すこと、或いは単に調律を戻すこと、を指す場合もある、ということでしょうか。


2009年7月7日火曜日

不安定頻脈性心房細動

心房細動ごときで不安定になることは少ないと言ったそばから、来ました、不安定頻脈性心房細動(苦笑)。3時間前からの激しい動悸と胸痛を主訴に来院した高齢女性。後期研修医が対応。HR150bpm程の頻脈性心房細動で血圧60台。
意識清明ですが胸痛症状が強かったとのこと。心エコーでは左室収縮能は保たれており、局所的壁運動異常なし。大動脈弁狭窄症なし、その他器質的異常なし。脱水傾向が疑われ、急速輸液するも血圧70/ほどで、やむなく同期下電気的カルディオバージョンを行いました。二相性30Jでcardioversionできず、50Jでもだめ、100Jで洞調律に回復、しかしその後すぐに再発、アミサリンを投与したところ洞調律に回復し、その後洞調律を維持できました。
血圧も120/ほどになり安定した状態を維持、自覚症状も消失しました。著しいST低下所見を認めたため翌日CAG施行しましたが、冠動脈有意狭窄は認めませんでした。

特に基礎心疾患がない方でも頻脈性心房細動で不安定になりました。なぜでしょうか。わかりません。脱水だったからかもしれません。左室拡張障害が強く、atrial kickに依存していた人だったのかもしれません。いずれにしても、不安定頻脈に対し、電気的cardioversionを選択した後期研修医の判断は正しかったと思われます。結果的にはその後抗不整脈薬を使用せざるをえませんでしたが。
でも、二相性30Jとはいかにも中途半端でした(苦笑)。
二相性除細動器による心房細動への電気的cardioversionの推奨ジュール数は100-120Jから、とACLSプロバイダーマニュアルには記載されています。
単相性除細動器の場合、心房細動への電気的cardioversionの推奨ジュール数はACLSプロバイダーマニュアルには100-200Jから、とされていますが、AHA/ACCの心房細動のガイドラインでは200J以上、と記載されています。
心房細動に対する電気的cardioversionについてのある研究では、除細動成功率が、単相性100Jでは14%、200Jでは39%、360Jでは95%であったとのことです。心房細動は結構除細動されにくいんですよね。

2009年7月6日月曜日

ISLSとAHA ACLSについての私見















AHA ACLSの脳卒中は、虚血性脳卒中を如何に迅速に線溶療法(tPA)に持ち込むかということに焦点が当たっています。大変シンプルです。脳卒中が疑われる患者を特定し線溶療法を念頭にCTをとりつつ迅速に専門医へ受け渡す、大雑把に言えばこれだけです。NIHSS(NIH脳卒中スケール)については「詳しい説明はACLSプロバイダーコースの範囲を超える」と記載されています。確かに、非専門医やパラメディカルが無理にNIHSSで評価しても、患者が得られるメリットはあまり無いかもしれません。
シンプルで頭では理解し易い反面、コースでは座学のみのため意外と実際の対処にはつながりにくいかもしれません。DVD中寝ちゃう受講生もいるし(苦笑)。

一方、ISLSは、客観的な意識障害の評価を行い、脳卒中スケール(NIHSS)による評価を行い、初期診療における呼吸、循環管理を行う、また代表的な脳卒中(脳出血、くも膜下出血など)についても検討する、といったことが到達目標として挙げられています。明らかにAHA ACLSのそれより範囲が広いです。線溶療法のみならず様々な脳卒中患者に対する初期対処法を学ぶ講習会ということです。
上記評価方法を実技として行うため、技術が身に付き易く、脳卒中全般に対する理解も深まります。また日本では比較的多い脳出血の症例などに対する実技練習もあり、現場に即しているといえばその通りかもしれません。ただし、最も重要と思われる虚血性脳卒中への迅速な線溶療法(Time is brain)の意識がやや薄まったり、場合によっては不慣れなNIHSSに手間取り、そのため線溶療法が遅れたりする事態につながりかねないのでは?なんて気持ちにもなったりします。講習で得られた知識や技術がどこまで患者のメリットにつながるかは分からないという気もします。自分でやりすぎず、(施設的な環境が許せば)早く専門医を呼ぶのが大事かなと。プロバイダーと専門医の役割の境界をもう少し明確にすると分かりやすいかもしれません。
模擬臨床においては受講生が患者役をしますので、上手下手も当然あり、質の均一化も難しい面があります。
双方のコースの優劣は特にないと思います。受講生としては、双方のコースの目標を理解した上で良いとこ取りすれば良いのでしょう。あくまで脳卒中への理解がまだまだ浅い自分の私見です。
個人的には、だいぶ脳卒中へ親しみが湧きましたから、AHA ACLSコースの脳卒中の指導も少しゆとりを持てそうな気がします。

2009年7月5日日曜日

ISLS受講その2

ISLSコース受講で、もう一つ思ったこと。
インストラクターは3人ともにある施設の救命センターの救急医の先生方でした。恐らくはBLSやACLS、その他外傷系のコースなども手がけているような雰囲気でした。日常業務でただでさえ多忙と思われる中、週末は各コースに参加されているとなると、本当にご苦労も多いかと思います。様々なコースが増え、学ぶ機会が増えることは多くの医療従事者にとって素晴らしいことですが、一部の人間に負担がかかっているような気がして、少々心配です。
僕自身はインストラクターとしては、当面BLS、ACLS以外は手を出さないつもりです。これだけでも手一杯なもんで、すいません。

ISLS受講


自分はAHA ACLSインストラクターでありながら脳卒中についてはあまり精通しておらず、弱点の一つとなっています。先日のtPA講習会に続き、本日はなんとISLSコースを受講してきました。いわゆるシミュレーション講習会を受講生として参加するのは久しぶりですので少々緊張しました。ISLS(Immedeate Stroke Life Support)は、ICLSコースの脳卒中版とでも言うべきもので、日本人の国民病とも言える脳卒中患者への初期対応を学ぶ講習会です。
AHA ACLSコースの中にも脳卒中の時間が設けられていますが、DVDを見つつ少々ディスカッションする程度のものであり、正直あまりimpressiveではありません。
今回の受講の目的は、以下の2点です。
①自分の脳卒中に対する知識、技術の向上
②AHA ACLSの脳卒中との内容や教育手法の対比

コースはインストラクター3人、受講生10人程という小規模で開催され、約4時間で、うち2時間が座学+簡単な実技、2時間が模擬臨床(シミュレーション)でした。
結論としては、自分としては脳卒中の初期対応に関する情報が整理されて大変勉強になりました。活字としては良く知っていたつもりのGlasgow Coma Scale(GCS)も、いざ患者を目の前にしてきちんとスケール化しようとすると恥ずかしながら結構悩んでしまったりします。知識と技術、実践はやはり異なるものです。NIHSS(NIH Stroke Scale)も模擬患者相手に実践し、研修医の頃以来?(笑)の神経所見の評価でした。
昔使ったYear Note(!)の脳神経のページを思わず見返したりして(笑)。
まだ改善すべきことは多々あるコースではありますが、結構楽しく過ごさせて頂きました。
ということで、①の目的についてはまずまず満足の行くコースでした。②についてはまた改めて書きたいと思います。

2009年7月4日土曜日

2度房室ブロックと迷走神経刺激手技

2度房室ブロックの話。PQ間隔が徐々に延長してQRSが脱落するのがウェンケバッハ型2度房室ブロック。


PQ間隔が一定で突然QRSが脱落するのがモービッツ2型2度房室ブロック。

前者の多くが房室結節の異常に起因するもので、後者が房室結節より遠位部の伝導系(ヒスプルキンエ系)に異常があります。刺激伝導系のどこに異常があるかにより、危険性が変わります。後者のほうが危険性が高いわけです。
2:1房室ブロック、即ち、QRSが一拍ごとに脱落する場合、どちらのタイプのブロックか分かりませんので、リスク評価がしずらいわけです。
そこで鑑別に役立ち得るのは迷走神経刺激手技、特に頚動脈洞マッサージです。迷走神経刺激は房室結節伝導を遅延させますが、ヒスプルキンエ系の伝導は遅延させません。2:1房室ブロック患者に頚動脈マッサージを行い、ブロックの程度が悪化したら房室結節に原因のあるブロック、即ちウェンケバッハ型に準じた病態と考えられます。ブロックの程度が改善したらヒスプルキンエ系に原因のあるブロック、即ちモービッツ2型準じた病態と考えます。
ヒスプルキンエ系に原因がある場合、頚動脈洞マッサージで心房のレートが減少することによりヒスプルキンエ系の伝導が改善しうるそうです。
頚動脈洞マッサージは頻拍性不整脈患者に対してのみならず、徐脈性不整脈患者の鑑別にも使用することがあるということです。僕はやったことありませんが(笑)。


2009年7月3日金曜日

脳梗塞と急性大動脈解離


自分は循環器医であり正直なところ脳卒中患者の対応をする機会はあまりありません。しかしながらAHA ACLSインストラクターとしては脳卒中の初期対応について熟知しておく必要があります。経験不足を補う意味も含め、遅ればせながら先日日本脳卒中学会主催の「脳梗塞rt-PA適正使用講習会」を受講してみました。
循環器医として印象に残ったことの1つは、急性期脳梗塞における急性大動脈解離合併についてです。本邦で約2年間のtPA使用約7000例のうち10例が大動脈解離による脳梗塞患者であったということです(tPA投与後に大動脈解離に気づいた)。脳血管障害合併大動脈解離だけでも極めて重篤な事態ですが、それにtPAを投与すれば病態は当然悪化します。10例全例死亡したとのことです。(tPA使用しなくても亡くなったかもしれません)
このような事態を踏まえて、以下のような対処が勧められています。

【急性期脳梗塞における急性大動脈解離合併について】

脳梗塞は急性大動脈解離の約6%に合併しますが、急性大動脈解離症例の1055%には胸痛や背部痛がないことが報告されています(Neurology 2000;54:1010)。したがって、脳梗塞超急性期にすべての症例において大動脈解離の合併を否定することは困難です。

実際の対応としては、t-PA投与前に四肢の脈拍触知を確認すること(Neurology 2003;61:581)、胸部X線写真の撮影をできる限り施行すること(Stroke 1999;30:477)が望ましいと思われます。そして病歴(直前の胸痛,背部痛)や身体所見(血圧低下、末梢動脈拍動の減弱もしくは左右差、大動脈弁逆流性雑音)、検査所見(上縦隔拡大)等から、大動脈解離を疑う所見が得られれば、t-PA使用前に可能ならば胸部造影CT検査や頸部血管エコー検査を考慮する必要があります。



確かに難しい問題です。急性大動脈解離を見逃せば大問題ですが、しかしながら頻度は決して多くはないわけで、大動脈解離合併を警戒しすぎてtPA治療が必要以上に遅れてしまったり、適応を逃してしまっても問題です。
上記文書データの引用文献は読んでいませんが、IRAD reviewでは無痛性急性大動脈解離は全体の6.4%であり、比較的稀とされています。従って問診や病歴は大変重要でしょう。55%も無痛性だったという報告は驚きですね。また、例えば胸部X線で縦郭拡大を認めるのはIRAD reviewによると、急性大動脈解離(A型)の63%です(ちなみにB型は56%)。また、動脈触知 の異常があった例は急性大動脈解離(A型)で19-30%(B型は9-21%)です。脳血管障害を併発している場合は各々もっと高率になると思われますが、それらの所見を認めないということを大動脈解離を除外する根拠とするには少々不安が残ります。
迅速に施行でき、かつ精度の高い検査としては超音波検査(心臓、頚部血管)になるでしょうか。脳卒中を疑う患者全員に超音波検査をやりたい気分になります。ERに携わる医師にとって超音波検査の技術は極めて重要と改めて思いました。
そういえば以前、ある有名病院では、脳卒中患者は来院後早急に頚動脈超音波、心臓超音波(経胸壁、経食道)、経頭蓋超音波を全てルーチンでやるなんてことを聞いたことがあったのを思い出しました。

2009年7月2日木曜日

様々な迷走神経刺激手技

迷走神経刺激手技には他にも様々な方法があります。

  • Carotid sinus massage 頚動脈洞マッサージ
  • Valsalva maneuver バルサルバ手技
  • Water immersion (diving reflex) 浸水試験
  • Eyeball pressure (oculocardiac reflex) 眼球圧迫
  • Breath-holding 息止め
  • Rectal examination 直腸診
  • Coughing 咳
  • Deep respirations 深呼吸
  • Gagging 咽頭反射
  • Intracardiac catheter placement 心内カテーテル留置
  • Medical Anti-Shock Trousers (MAST garments) 止血パンツ
  • Nasogastric tube placement 経鼻胃管挿入
  • Squatting スクワット(しゃがむ)
  • Trendelenburg position (トレンデレンブルグ体位)

  • いろいろありますね。
    心内カテーテル留置し、止血パンツはかせてしゃがませて、バルサルバ手技やらせつつ顔面を水つけて、眼球圧迫して、鼻管いれつつ咽頭刺激して、おまけに直腸刺激、頚動脈洞マッサージしたら、最強迷走神経刺激手技ですね(爆)。冗談です。

    ちなみに眼球圧迫は眼球損傷などの合併症が危惧されるため現在は推奨されていません。

    参考:Up To Date

    2009年7月1日水曜日

    AS+AF 不安定頻拍



    高齢女性。以前より中等度〜重度の大動脈弁狭窄症を指摘されていましたが、弁置換術といった外科的治療は拒まれていた方です。重度の大動脈弁狭窄症は様々な心疾患の中でも最もリスクの高い疾患の一つと考えられ、突然死の代表的疾患としても知られています。今回消化器的な問題で入院中にHR160bpmほどの頻脈性心房細動発作を生じました。心房細動は著しい頻脈になり易く、かつ心房と心室の相互作用が欠如しますので心拍出の効率が低下します。そのため、いつも100mmHg/以上ある血圧は70mmHg/ほどとなり、ショック状態になりました。
    ACLSコースで言う不安定頻拍です。すぐさま循環器科にコンサルテーションが来ました。循環器科の後期研修医が迷いなく同期下電気的カルディオバージョンを行ってくれました。プロポフォールで鎮静し、二相性除細動器100Jで教科書通りの手技です。一発で洞調律に戻り、血圧も回復しました。

    一般的には心房細動ごときで不安定頻拍になることは少ないですが、このように重症基礎心疾患があれば容易に不安定化しますし、迅速に対処しないと致死的事態に陥ってしまうことも稀ではありません。今回の処置も施行してしまえばなんてことのないことなのですが、大変重要な対処だと思っています。高齢化社会で、大動脈弁狭窄症+心房細動の不安定頻拍って結構遭遇しますね。
    ACLSは難治性心肺停止への処置のみならず、心肺停止への移行の阻止においても重要な役割を果たしていることを理解して頂ければと、いつも思っています。