2009年6月17日水曜日

心筋梗塞と急性大動脈解離

中年男性、胸背部痛を訴える患者が搬送されました。後期研修医が初期対応してくれました。12誘導心電図では2,3,aVFでST上昇していました。STEMIではありますが、背部痛も認めており、急性大動脈解離が冠動脈を巻き込んで生じている貫壁性虚血の可能性も考えたようです。心エコーでは大動脈内に明らかなフラップは見えなかったようでしたが、否定しきれないとしてまず造影CTを撮影しました。結局、CTで大動脈解離は完全に否定、その後心臓カテーテル検査、治療を行いました。通常の急性冠症候群で、右冠動脈にステント留置しました。
治療は順調で良かったのでしたが、造影CTを撮影した分、時間的に早期再灌流療法が少々遅れたり、造影剤を多く要したり、結果的にやや無駄な面がありました。
急性大動脈解離のおよそ5%にSTEMIの心電図所見を伴います。解離が右冠動脈を巻き込むことが多く、即ち2,3,aVFのST上昇の時は確かに注意が必要です。この後期研修医、そのような病態も頭に入っており、視野が広く、評価されることとは思います。
今回右側胸部誘導心電図もきちんと記録していました。これは2,3,aVFのST上昇即ち下壁梗塞の場合は必ず右側胸部誘導も記録し、右室梗塞合併の有無を評価する、ことはガイドラインでクラス1の推奨です。V4RのSTは上昇しておらず、右室梗塞の合併はありませんでした。右室梗塞とは右冠動脈の比較的近位部から分岐する右室枝が虚血に陥ることで生じます。右冠動脈近位部閉塞で生じるわけです。大動脈解離に下壁梗塞が合併する場合は当然右冠動脈は起始部から閉塞しますので、当然右室梗塞を合併することが多いです。右側胸部誘導でV4RのST上昇がなければ高い確率で大動脈解離による下壁梗塞の可能性は否定されると考えてよさそうです。今回も、そのように考え、造影CTを取らずに心臓カテーテル室に直入していたほうがベターだったと、その後期研修医にお話ししました。大変よく考えてくれている後期研修医ですが、更なる成長を期待します。

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